公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2019.11.27 (水) 印刷する

東大紛争とは大違いの香港の大学籠城 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 1週間ほど前、朱建栄東洋学園大学教授はBSフジの番組で香港での大学立て籠もりを、昭和44年1月の東大紛争における安田講堂封鎖解除事件と同一視する発言をした。
 しかし、最も香港の民意が反映されるとして注目されていた今回の香港区議会選挙は、投票率が過去最高を記録するとともに、民主派が総議席の85%を獲得して圧勝した。安田講堂立て籠もりが、過激な極左学生集団による事件として全く国民から支持されなかったのに対し、香港でのデモ活動については民衆から支持されていることを証明した形だ。
 この違いが分らずに「警察は正しい、デモをする香港人が悪い」として圧力を強める香港行政府・中国政府、そして中国政府系言論人の態度こそが、今回の香港騒動の最大の原因ではなかろうか。

 ●したたかな中国の情報工作
 折しも、オーストラリアに亡命申請をした中国人スパイが、人民解放軍からの指示で香港の民主化運動に関する情報を収集したり、中国政府に批判的な書籍を出版・販売した書店関係者の誘拐に関わったりしていたと証言した。この中国人スパイは韓国人になりすまして台湾に入り、来年1月の総統選挙への工作活動に従事したことも明かしているという。
 当然ながら、日本国内でも中国の影響力を拡大させるための情報工作が行われていると見なければならない。中国政府は、このスパイ証言を全面否定し、彼を詐欺師呼ばわりしているが、そもそも詐欺犯なら中国を出国できないはずだ。
 中国の官製メディアは、香港のデモ活動について、米国に操られたものであるかのような情報を流し続けている。25日の中国共産党機関紙「人民日報」系の「中国日報」(英語版)は「香港はメディアの束縛と操作の二重の犠牲者」とか「暴力は香港民主主義を脅かしている」といったネガティブ・キャンペーンを展開し、選挙結果を報じていない。

 ●情報リテラシーを高めよ
 悪意のある情報や世論操作を鵜呑みにしてはならない。発信源の隠された意図を見抜き、悪影響を回避する能力を情報リテラシーと呼ぶが、今回の香港区議会選挙では香港市民の情報リテラシーの高さが証明されたといえる。
 中国の新疆ウイグル自治区で当局がウイグル族住民に対し強制労働と思想改造教育を強いているとする極秘文書が漏えいし、国際批判を浴びているが、これについても中国政府は全面否定している。
 こうした中国の「やり口」を知ることは、台湾にとっても良き教訓となる。さらには中露や朝鮮半島からの偽情報に晒されている我が国にも今後の良き指針を与えてくれたのではないか。SNSなどを通じた感情に訴える情報に触れた時には、政府等の公的なウェッブサイトや報道にアクセスして真偽を確認することが重要な意味を持つ。信頼性のある情報源に当たって二重、三重にチェックし、日本人自らが情報リテラシーを高めていくことがなにより必要だ。