15日のNHK‐BS1で「パンデミックは世界秩序を変えるのか」という特集があった。番組内容をNHKのホームページから紹介すると以下のようなものである。
「新型コロナウイルスの感染者と死者の数が世界で最も多いアメリカ。感染は力の象徴でもある空母などにも広がり、アメリカ軍の活動は大幅な縮小を余儀なくされている。この機に乗じて、中国海軍は大規模演習を行うなど活動を活発化。コロナ終息後を見据えて影響力拡大を図っている」
番組ではまた、イタリアの困窮に欧州連合(EU)が冷たく、このタイミングで露・中が積極的な救助外交を展開し、欧米が劣勢に陥っているとも紹介しているが、これらの分析は一面しか見ていない。
第1に東アジアに目を転じれば、自由民主体制で、しかも世界保健機関(WHO)から排除されている台湾が、感染拡大を上手く制御できたことから、国際的地位が向上していることだ。第2には中国管制メディアが報じる感染者数の減少を真に受け、中国が感染拡大の封じ込めに成功しているとの認識に基づいている点であり、第3は中露の国境封鎖によって擬似同盟とまで言われている両国間に亀裂が生じている点である。
●マッチポンプ演じる中国
「人、モノ、カネ」の自由な往来によって国境の壁が取り除かれていた欧州連合(EU)が、新型コロナウイルスの感染拡大で自国中心の国境封鎖に踏み切り、EUの存在意義は低下した。
医療品を中国からの輸入に頼っていた米国は、中国から「医薬品の輸出規制をすることも可能。その場合、米国は新型コロナウイルスの大海に沈むだろう」(新華社の社説)と恫喝され、中国に依存してきたサプライチェーンを見直そうとしている。
しかし「放火犯が消化チームを演じる」中国のいわゆるマスク外交に、援助を受けた一部の国は最初のころこそ謝意を表明したものの、送られてきた医療品の粗悪ぶりが早くも露呈し、中国の国際的な信用度を落とす結果にもなっている。
また、国際機関のトップに中国人を据えることで国連活動の主導権を握ろうとしてきた実態も明らかになり、諸外国は中国への警戒心を強め始めている。ついに米国は世界保健機関(WHO)への資金拠出を停止すると表明した。
新型コロナウイルスの世界的拡散の背景に「一帯一路」構想に沿って海外に進出している中国人労働者の存在を指摘する声もある。また、これまで中国からの投資を当てに多くのインフラ整備を進めてきた国々は、借款の返済不能に陥り、港湾使用権などを借金の形に差し出さざるを得ない事態に追い込まれたケースも少なくない。
これまで中国からの巨額投資を受け入れてきた中東欧諸国、そしてロシアにエネルギーを頼ってきたドイツが、その過度な依存のあり方に疑問を持ち始めている。
●不可欠な「緊急事態条項」
日本も、多くの生産拠点を中国に置く従来のサプライチェーンのあり方を修正しようとしている。中韓からのインバウンド需要に頼ってきた観光産業も見直しを迫られている。
新型コロナウイルスの発生源である中国ばかりか、欧米の指導者も今回の危機を「戦時」と捉える発言をしている。
その中で日本の「緊急事態宣言」は、強制力を伴わない要請ベースのものでしかない。さすがに、これまで人権制限につながると批判的だった立憲民主党や日本共産党ですら、今になって宣言の発出は「遅きに失した」と批判し始めている。
今後、国家の危機にあって不可欠とされる「緊急事態条項」を憲法に盛り込むべきとする議論は、日本でも拍車がかかるのではないか。日本が「真っ当な国」になることは、欧米諸国にとっても歓迎すべきことであるはずだ。