公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2020.10.12 (月) 印刷する

QUAD、インドへの過大な期待は禁物 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 10月6日に日米豪印のいわゆるQUADの外相会合が東京で開かれた。次は防衛大臣会合も行なわれるかの報道もなされ、気が早い人達の中には北大西洋条約機構(NATO)のアジア太平洋版が出来上がるかのような期待を抱いている向きもある。

しかしインドは元来、非同盟中立を外交政策の柱に据えており、そう簡単にQUADの同盟あるいは準同盟が形成されるとは考えにくい。6日のQUAD外相会談に参加したインドのジャイシャンカル外務大臣は、先月モスクワでロシア、インド、中国の外相会談にも出席している。

インドはまた、ロシア、中国等ユーラシア大陸国家で形成する上海条約機構には2017年に加盟している。今世紀に入ってから経済成長著しいブラジル、ロシア、インド、中国によるBRICsの一員でもあり、インドにとってQUADはこうした多くの多国間機構のうちの一つくらいに考えているかもしれない。

同じ戦術図が共有できない

筆者は第64護衛隊司令の時、日米豪3海軍共同訓練の指揮官を行った経験がある。この時、横須賀に入港した豪海軍の軍艦を事前に見に行ったが、流石にファイブアイズ(米英豪加とニュージーランドによる高度情報共有連合)の一員だけあって、海上自衛隊の艦艇が保有していない秘話装置等を持っていたことに驚かされた。

通常、戦術指揮は生の音声で行うことはなく、暗号化され、それを同盟戦術書(ATP)で解読するのであるが、豪海軍は海自が保有しているATPの一世代新しい暗号書を使用していた。
 
3海軍共同訓練を通じて印象深かったのは、豪海軍が極めてプロフェッショナルな集団であった事である。そして3海軍はデーターリンクによりリアルタイムで戦術状況図を共有できる。
 
仮に日米豪印の4海軍が共に作戦行動をする場合、インド海軍は非同盟であるが故にATPを保有していない。したがって暗号化されていない平文で秘話装置を通さず無線交信せざるを得ない。これまでマラバールと称する日米印の海軍演習を太平洋やインド洋で行って来たが、極めて初歩的な戦術運動や通信訓練を共にした程度のシンボリックな訓練にとどまり、作戦行動を共にするハイエンドにまでは至っていない。

気掛かりなロシアとの結びつき

筆者はインドの海軍系シンクタンクで講演や意見交換会を行って来たが、必ずと言っていいほどロシア海軍の現役あるいは退役将校が参加していた。そしてインド海軍は装備もキロ級潜水艦をはじめロシア製が多く、戦術思想も影響を受けている。このため、腹を割っての軍事交流が中々できない環境下にある。

したがって日米豪印が同盟、あるいは準同盟国として共通の作戦ができるようになるには相当時間が必要だろう。過大な期待は禁物と言わざるを得ない。