7月末に新疆ウイグル自治区の砂漠地帯に中国が新たに110基の核ミサイル用地下発射施設を建設しているとの報道があった。その一カ月前には甘粛省玉門で核ミサイル用地下発射施設約120基が建設されているとの報道があったばかりである。そして8月12日には米空軍大学の専門家が、内モンゴル自治区のオルドス地方で大陸間弾道ミサイル(ICBM)用と見られる地下施設が29カ所建設されていると発表した。こうした凄まじいばかりの中国の核戦力増強の狙いは一体何なのだろうか。
日本の台湾関与を核でけん制
ICBMサイロは戦略潜水艦や移動式発射装置と違って位置が固定されているため、戦時には真っ先に敵国のICBMのターゲットになる。それ故、チベット自治区のDF-4というICBM基地同様、新疆ウイグルや内モンゴルといった異民族の自治区に配備しているのであろう。新疆ウイグル自治区にはロプノール核実験場もあり、ここで中国は公表せずに核実験を行ってきた。日本の反核団体は米国の未臨界核実験に抗議するが、中国は非公表で行っているのである。
昨今の増設は、米露が核戦略交渉に中国も巻き込もうとする動きに対抗して既成事実を作りあげてしまおうとの意図なのか、あるいは米中の緊張が高まっている中で、対米で劣勢の核戦力を増強させたいと考えているのか、いまひとつ意図を読みきれない部分がある。一つだけ確かなことは、専守防衛を「国是」としている日本からは攻撃される恐れがないことである。そして最近の台湾情勢の緊張を受けて気になる報道があった。
昨今の台湾有事を想定した日本の関与の動きについて、中国では「日本が台湾有事で一兵たりとも送ったら直ちに日本を核攻撃する。日本が完全に降伏するまで核攻撃を続ける。日本は既に核攻撃の被害を体験し、核には過敏に反応するから中国の対日核攻撃はごく小規模でもその目的を達成できるであろう」とのナレーション付きで民間グループ作成の動画が中国全土に拡散し、一部は地方の共産党委員会サイトにも転用された。中国では、共産党政権の意向に反する動画など拡散する筈がないので共産党是認と考えて良い。
嘘だった「核先制不使用」
これでわかったことが一つある。これまで中国は公式に「核先制不使用」を掲げ、「核を保持していない国と非核地帯に対しては、核兵器を使用すると威嚇しない」と約2年毎に公表される『中国の国防』などで表明してきた。だが、それは全て嘘であったということである。
動画は言う。「核先制不使用の適用に関し日本は例外である。日本は日清、日中戦争で中国を2回も侵略し、日中戦争だけで3500万人の無辜の中国人民を殺し、今また中国を侵略しようとしているからだ」と。
毎年8月の終戦記念日には、日本では核廃絶を唱える声が絶えず、メディアもそうした声ばかり報道する。しかし「不戦の誓い」は民族の滅亡を意味し、現実の世界は非核三原則や専守防衛に修正を加える議論を行う時期にきている。そのことを忘れてはならない。