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2022.09.06 (火) 印刷する

世界で強まる原子力復活の動き 十市勉(日本エネルギー経済研究所客員研究員)

岸田文雄首相は8月24日、原発再稼働の迅速化および次世代炉の開発・建設の検討を指示するなど、原子力の活用に向けて一歩踏み出した。すでに昨年来、欧米諸国は脱炭素と電力の安定供給を両立させるために、原発の稼働期間の延長や新増設に向けた取り組みを進めていた。現在のロシアによるウクライナ侵略で、クリーンエネルギー移行における原子力の重要性が一段と高まっている。しかし多くの先進国では電力自由化が進む中、経済的理由から原発の新増設が難しく、国の積極的な関与や支援が必要となっている。

欧米は原発新設や稼働延長

フランス政府は、今年2月に「新エネルギー政策」を発表し、6基の改良型の欧州加圧水型炉(EPR2)を新設(2028年着工、2035年運転開始)し、さらに8基の建設に向けて調査するなど、原子力回帰の姿勢を鮮明にした。そして7月には、フランス電力公社(EDF)を100%国有化する方針を決めた。また英国政府は、4月に発表した「エネルギー安全保障戦略」で、今後10年程度で最大8基の新設を目指し、原発の発電比率を現在の16%から25%に引き上げるとした。そのため、設備投資の費用を総括原価方式で回収できる仕組みの導入を検討している。

さらに今年末に原発ゼロを既定路線としてきたドイツでは、エネルギー危機が深刻化する中、国内に残る原子炉3基のうち2基の運転を当面継続する方針を決めた。2025年の脱原発を進めていたベルギーも、電気料金の抑制とロシア産ガスからの依存脱却のため、原発2基の稼働期間を10年延長することを決めた。

米国では、電力自由化が進むニューヨーク州やイリノイ州などで、早期閉鎖を計画していた原発に対して州政府が、二酸化炭素(CO2)ゼロ排出証書を交付して補助金を支払う制度を実施している。また8月に成立したインフレ抑制法には、既存の大型炉や次世代炉への新規投資に対して、再生可能エネルギーや水素製造などと同様に税額控除を適用することが明記されている。さらに小型モジュール炉(SMR)で先行している米ニュースケール社は、1基あたり7.7万キロワットの小型炉を6基連結した46.2万キロワットの新しいタイプの原発建設を計画し、2029年に初号機の稼働を目指している。

日本も原子力重視を明確にせよ

一方、中国とロシアは、世界で建設中または計画中の軽水炉の約60%を占めるなど、世界市場を席巻している。ロシアは、旧ソ連圏やイラン、最近では中国、ハンガリー、インド、トルコ、バングラデシュ、エジプトなどで国産の原子炉を稼働中か建設中である。中国では、現在約50基が稼働中であるが、2025年にはフランスを抜き、2030年代には米国を超える世界一の原子力大国になりそうだ。今後中国は、技術力と資金力を活かして途上国への原発輸出を増やし、政治的な影響力の拡大を図るだろう。

エネルギー資源に乏しい日本は、原子力のサプライチェーンを維持するためにも、安全が確認された原発の再稼働を早急に進め、同時に欧米企業と連携して次世代炉の技術力や産業力を強化する必要がある。そのためには、国策として原子力の重要性を再確認して、政治家が先頭に立って必要な条件整備を行うべきである。(了)