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2023.03.01 (水) 印刷する

拉致被害者救出は1秒でも早く1人でも多く 荒木和博(特定失踪者問題調査会代表)

家族会(北朝鮮による拉致被害者家族連絡会)と救う会(北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会)は2月26日、合同の会議を開催し、「親の世代の家族が存命のうちに全拉致被害者の一括帰国が実現するなら、我が国が北朝鮮に人道支援を行うことに反対しない」という内容を含めた金正恩朝鮮労働党総書記へのメッセージを採択した。しかし、このメッセージは非現実的だと言わざるをえない。

誰も「全拉致被害者」を把握していない

まず「全拉致被害者の一括帰国」自体が実現不可能である。そもそも「全拉致被害者」が何人、どこにいるのか誰も把握していない。金総書記が「全員返す」と決めたとしても、彼自身が名簿を持っているわけではない。工作機関が全部出してくるという保証はない。交渉でやるなら、既に北朝鮮が認めている田中実さんと金田龍光さんをはじめとして取り返せるところから取り返していくしかないはずだ。

人道支援との取引で「全拉致被害者の一括帰国」を実現できるとしたら、唯一可能性があるのは「全拉致被害者」を政府認定拉致被害者に限定することである。しかしそれは絶対に許されるものではない。

また、現在餓死者が出ているという状況の中でミサイルの乱発をしている北朝鮮の体制が、一般の国民を救うような援助を受け入れるだろうか。支援がミサイルや核開発に使えるもの、要はあの独裁政権を延命させるものでなければ取引材料になるはずがない。それはさらに多くの餓死者を出し、政治犯収容所や公開処刑という世界でも最悪の人権状況を延命させる「非人道支援」になりうる。

取り得る全ての手段を

特定失踪者問題調査会では北朝鮮から拉致被害者の情報を得るための情報注入を続けてきた。短波放送「しおかぜ」、風船でビラを送る「バルーンプロジェクト」、ファクスを送る「FAXプロジェクト」に加え、現在は韓国のNGOの協力で、政府認定拉致被害者と特定失踪者の情報を入れたUSBを送る作業を進めている。それ以外でも、できることは何でもやっていくつもりだ。

ともかくチャンスは絶対に逃さないようにして、取り返せるところから取り返す。しかも交渉だけではなく、海上からの脱出、自衛隊による救出も含め、可能な手段をすべてとることが必要である。そして最終的には、北朝鮮の体制があの世襲独裁ではなく、彼の地の2000万余の人々にとってもよりましなものになって、私たち自身が被害者を捜しに入れるようにしなければならない。

拉致被害者は1秒でも早く、1人でも多く取り返していくしかない。あらためて救う会と家族会に再考を促したい。(了)