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国基研ろんだん

2023.09.04 (月) 印刷する

安倍派新体制に萩生田氏の覚悟を問う 有元隆志(月刊正論発行人)

自民党最大派閥の安倍派(清和政策研究会)は塩谷立・元文部科学相を「座長」とする集団指導体制を8月31日に発足させた。新たな意思決定機関として、松野博一官房長官、萩生田光一党政調会長、世耕弘成参院幹事長らいわゆる「5人組」を中心とした15人の「常任幹事会」を設置した。

安倍晋三元首相の暗殺から1年以上経っても次期会長を決めることができず、「安倍派」の名称も残った。安倍元首相に近かった衛藤晟一元少子化担当相が地元紙大分合同新聞のインタビューに答えたように、それだけ「安倍元首相の存在が大きく、後を継げる適任者が年長者の中にいない」ということだ。

常任幹事会は村の寄り合い

自民党の派閥の歴史を見ても、100人規模を維持していくことは容易でない。それでも、安倍元首相が約100人の派閥の会長となったのは、ひとえに目指す政策を実現するためであった。

安倍元首相は「美しい国日本」を創造していくとして、憲法改正、教育改革、外交・安全保障の抜本的な変革に取り組もうとした。

安倍派ではその遺志を継ごうと昨年11月、憲法改正、安全保障・防衛費、成長戦略・積極財政の3つのプロジェクトチームを設置し、検討作業を続けてきた。これらの課題を実行に移すにはリーダーが必要なのは言うまでもない。

常任幹事会が15人もの人数に膨れ上がったことについて、さっそく自民党内からは「近世の村の寄り合いのようだ。人事をめぐって長老の森喜朗元首相も含めてガタガタした挙句、村八分にされたのが下村博文元政調会長だったということか」(閣僚経験者)と揶揄する声が出ている。

安倍氏の意中の人

「常任幹事会」制は1985年2月に、会長だった田中角栄元首相が脳梗塞で倒れた後にしばらくたってから田中派で導入された。安倍派のケースと似ているところもあるが、田中派の場合は、竹下登元首相という後継の最有力候補がいた。二階堂進元副総裁らは「竹下会長」に反対を貫き、田中派は分裂するが、多くの議員は竹下派に所属した。

安倍派の場合、塩谷氏が座長にとどまったことで示されるように、竹下氏のような存在はいない。それでも、衛藤氏はインタビューの中で次期会長について「安倍元首相は後継を託せる人材が少ないことを嘆いていたが、5人組の中に安倍氏の意中の人はいる。それが誰なのかは言わないが、安倍氏とは、一緒に将来を担う人材に育てていこうと話していた」と語った。

衛藤氏は具体名を挙げなかったが、「意中の人」とは萩生田氏に他ならない。安倍元首相もしばしば萩生田氏のことを「僕の腹心」と呼んで信頼していた。一方で、「幹事長タイプ」とも語っていた。

総理総裁を目指せ

常任幹事会制を受け入れたということは、萩生田氏にはまだ派閥を率いる覚悟がないということだろう。派閥の会長になるということは、すなわち総理総裁を目指すことである。萩生田氏自身も会長になるならば、幹事長で終わるのではなく、総裁を目指すという志を立てないと求心力を持つことはできない。

安倍元首相は「日本を誇れる国にしたい。一刻も早く戦後体制に終止符を打ち、新しい『日本の朝』を迎えたい」と語っていた。安倍元首相の遺志を継ごうとするならば、萩生田氏は覚悟を固めるべきである。

このままずるずると寄り合いを続けても、いずれは破綻する。日本を取り巻く国際情勢が厳しさを増す中、いつまでも悠長に構えてはいられない。(了)