中長期的なエネルギーのあり方を定める「第7次エネルギー基本計画」の原案では、平成23(2011)年9月の東京電力福島第1原子力発電所事故を受けた平成26(2014)年の計画改定以降、必ず盛り込まれてきた「原子力依存度を可能な限り低減する」との文言が初めて削除された。ロシアのウクライナ侵略をきっかけとした資源価格の上昇、電力需要の大幅増加に加え、政治力学が変化したことも要因として挙げられる。
再エネ推進派の影響力後退
9月27日投開票の自民党総裁選では、太陽光などの再生可能エネルギー推進の旗振り役だった河野太郎前デジタル相、小泉進次郎元環境相が上位2人による決選投票に残れなかった。河野、小泉両氏の後ろ盾であり、首相時代の令和2(2020)年10月の所信表明演説で、温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「2050年カーボンニュートラル」を打ち出した菅義偉自民党副総裁の影響力も低下した。
総裁選では党有志議員による「脱炭素社会実現と国力維持・向上のための最新型原子力リプレース推進議員連盟」が各候補を対象に原発政策に関するアンケートを行った。決選投票に残った石破茂首相は「新増設を含めあらゆる選択肢を排除せず」とした。同じく決選投票に残った高市早苗前経済安全保障担当相は最新型原発へのリプレース(建て替え)を含めて原子力の最大限活用に前向きな考えを示した。
国民民主党の躍進
さらに10月の衆院選では「原子力発電所の建て替え、新増設」を掲げた国民民主党が選挙前の4倍の28議席と躍進した。玉木雄一郎代表(役職停止中)や竹詰仁エネルギー調査会事務局長らは国基研のエネルギー問題研究会に毎回出席し、エネルギー問題のあり方について議論を交わした。同研究会では9月9日、「『再エネの主力電源化』はやめて、『原子力の最大限活用』に舵を切れ」との政策提言をまとめた。
玉木氏は11月27日には石破首相に対し、「第7次エネルギー基本計画」に対する要請を行った。その中で、「原子力の必要性を明確にし、安全を前提とした原子力発電所の稼働とともに、建替え・新増設(SMR〈小型モジュール炉〉、高速炉、浮体式等含む)を明記すること」を求めた。
崩れた公明党の壁
与党内では公明党が再エネの主力電源化、原発に依存しない社会を目指すことを一貫して主張してきた。3年ぶりに改定される「第7次エネルギー基本計画」の取りまとめに向けて、「原子力依存度を可能な限り低減する」の文言を削除することには「公明党の壁」が予想されたが、反対しなかった。
公明党幹部は「『依存度低減』の表現がなくなっても、原発の新増設は無理であり、実際には変化はない」と述べ、党の方針を変えたわけでないと説明する。
ただ、国基研企画委員の加藤康子氏が「(再エネ)一神教から多神教になった」と表現するように、「第7次エネルギー基本計画」が大きな転換点になったのは間違いない。
投票に行っても政治は変わらないとの声をよく聞く。今回の衆院選も投票率は53.85%で戦後3番目に低かった。だが、今回のエネルギー基本計画は選挙結果によって政治が変わるということを示した。
今後はいかに原発再稼働を進め、新増設を実現するかが課題となる。(了)