9月5日、米国のトランプ大統領は、国防総省を「戦争省」に改称する方針を示した大統領令に署名した。日本では、また狂った大統領が奇妙なことを言い出したと受け止める向きが多いが、米国では建国間もない1789年から第2次世界大戦直後の1949年まで、この官庁の名称は一貫して戦争省であった。
War Collegeの奇妙な和訳
米国の首都ワシントンにある国防総合大学(National Defense University)は筆者が卒業した1990年代、傘下の主要大学はNational War CollegeとIndustrial College of the Armed Forcesの二つであった。前者を直訳すれば国家戦争大学となるのに、ウィキペディアなどでは国防大学とごまかして和訳している。
当時の四軍(陸海空軍と海兵隊)には、それぞれ高級幹部(中佐の古手から大佐)の教育機関として、陸軍はArmy War College(ペンシルベニア州カーライル)が、海軍はNaval War College(ロードアイランド州ニューポート)が、空軍はAir War College(アラバマ州モントゴメリー)が、海兵隊はMarine War College(バージニア州クワンティコ)が存在するが、War Collegeの和訳は全て大学校または戦略大学とされた(例えばArmy War Collegeは陸軍大学校または陸軍戦略大学)。理由は「戦争」という言葉を使えば、日本人の聞き手が忌避反応を起こすからである。
不戦の誓いは奴隷化への道
石破茂首相は今年の全国戦没者追悼式で「不戦の誓い」という言葉を使用したが、侵略者と戦わなければどうなるか。8月の米アラスカ州でのトランプ大統領とプーチン・ロシア大統領による米ロ首脳会談後、ウクライナ東部ドンバス地方の住民がテレビのインタビューで「プーチンの奴隷になるくらいなら死んだほうがまし」と語る場面が映し出された。ウクライナ人は、侵略者と戦わなければ「奴隷」になることを知っているのだ。
日本でも終戦後、当時のソ連から攻撃されて捕虜となった日本の男子は、筆者の義父も含め、強制労働を課され、一種の奴隷となっている。
「守りも攻めも」が戦いの鉄則
トランプ大統領の戦争省への改称方針発表に同席したヘグセス国防長官は「我々は防衛だけでなく攻撃にも回る」と述べた。勝つためには防衛だけでなく、攻撃が必須であるという考えはスポーツや武道も含めた全ての戦いの原則である。
ウクライナ戦争でロシアを震撼させたのは、ロシア西部クルスク州へのウクライナ軍の侵攻であり、ロシア領内の複数地をウクライナ無人機が攻撃した「蜘蛛の巣作戦」であった。
翻って日本では、防衛の上に御丁寧にも「守るを専らにする」という修辞句を付けた「専守防衛」を未だに防衛政策の基本にしている。唯一の同盟国である米国が国防総省を戦争省に改称するのを機に、そろそろこの基本方針も改める時期に来ているのではないだろうか。(了)