7月2日、ニューデリーで行われた高市早苗首相とモディ首相の会談は、高市氏の首相就任後初のインド訪問という節目にふさわしく、日印関係を理念の共有から戦略協力の具体化の段階へと押し上げるものとなった。会談では、両首脳の個人的相性が良いことが感じられ、訪印は成功裏に終わった。
インドが期待する防衛技術移転
日印協力の第一の柱は、防衛協力の技術面における具体化である。高市首相が掲げる「進化した自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」と、モディ首相の掲げる「マハー・サーガル」構想は方向性を一にし、両首脳はインド太平洋を自由と繁栄の海とする共通目標を確認した。
象徴的なのは、海上自衛隊の艦艇に搭載されている高性能通信アンテナ「ユニコーン」の技術移転で大枠合意したことだ。これは単なる装備品の売却ではなく、艦艇の通信・情報伝達能力を高め、日印の相互運用性を深める初の共同開発案件であり、モディ首相が提唱する「メイク・イン・インディア」を尊重したものとして、その意義は大きい。
もっとも、インドにとっては装備の購入そのものより、国内生産、技術移転、雇用創出につながるかどうかが評価の物差しであり、日本側がその期待にどこまで応えられるかも今後の実務協議の焦点になろう。併せて、日印の外務・防衛閣僚による年内の「2+2」開催も指示された。防衛装備移転三原則の見直しが進む日本にとって、インドは装備・技術協力を実務段階に進める重要パートナーとなりつつある。
経済安保も協力の柱
第二の柱は経済安全保障である。半導体、重要鉱物、情報通信技術(ICT)、クリーンエネルギー、医薬品など重要分野のサプライチェーン強靱化や、エネルギー安全保障をめぐる共同声明が発表され、石油備蓄強化に向けた対話設立やインドの国際エネルギー機関(IEA)参加への後押しも表明された。
さらに2兆円規模の投資を含む120件超の日印企業間協力文書が同時に発表され、150社を超える日本企業が参加する経済フォーラムも活況を呈した。
インド側から見れば、これらは対中依存脱却という地政学的な計算だけでなく、国内製造業とインフラへの資金および技術を呼び込むという内政上の実利もある。トランプ政権下で対米関係がぎくしゃくし、非同盟を旨とする「戦略的自律性」を維持したいインドにとって、同盟を求めない日本は付き合いやすい相手である。
いずれにせよ、防衛産業を支える素材や通信基盤の安定なくして抑止力は維持できず、経済安保と防衛協力は不可分の両輪といえる。
今後の焦点は軍事技術協力の「制度化」
今後は、防衛装備・技術協力を単発の合意にとどめず、共同開発、共同生産、整備支援までを恒常的な仕組みとして定着させることが望まれる。安倍晋三元首相によるFOIPの提唱から10年、対中戦略の要である日印関係が実体を伴う段階へ進みつつある意義は大きい。国交樹立75周年に当たる来年に予定されるモディ首相の訪日に向けて、協力の機運を「制度化」へつなげることが日本の国益にかなう外交となる。(了)




