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2026.07.13 (月) 印刷する

中国敗訴から10年、混迷極める南シナ海 黒澤聖二(元統合幕僚監部首席法務官)

10年前の7月12日、フィリピンと中国が争った南シナ海を巡る仲裁裁判で、独自の「九段線」を主張し、南シナ海全域に管轄権があると強弁した中国が惨敗した。この裁定は最終的で、紛争当事国を法的に拘束するはずだが、中国は「紙くず同然」と切り捨て、南シナ海で人工島拡大を強行した。その結果、周辺関係国も中国の暴挙を批判しつつ、自国の権益確保のため岩礁の埋め立てを競い合う事態を招いた。中国も加盟する国連海洋法条約に基づく法秩序は、今や完全に風前の灯火ともしびである。

力が支配する海

南シナ海の動向を注視する米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)によると、スプラトリー(南沙)諸島では、フィリピンがティトゥ島に、台湾がイツアバ島(太平島)に、マレーシアがスワロー礁に、それぞれ1200~1400メートル級の滑走路を整備している。

特にベトナムの動きは顕著で、2025年初頭からスプラトリー諸島で自国が支配する八つの岩礁を新たに埋め立て、合計21の人工島を管理するまでに急拡大した。中国が実効支配する「ビッグスリー」(いずれも3000m級滑走路を持つファイアリークロス礁、スビ礁、ミスチーフ礁の三つ)を含む七つの人工島の総面積には及ばないものの、ベトナムがいずれ中国の規模に追いつくとの見方もある。

他方、中国もきょう手傍観はしていない。昨年12月から、南シナ海北西のパラセル(西沙)諸島にあるアンテロープ礁で浚渫しゅんせつを開始した。中国による南シナ海の人工島建設は、スプラトリー諸島での作業以来約9年ぶりとなる。パラセル諸島全域はすでに中国が実効支配し、ウッディー島(アンテロープ礁の北東約90キロ)には3000メートル級滑走路を持つ大規模軍事拠点がある。ここに2700メートル級滑走路を備えた新たな拠点が誕生すると、同諸島の軍事力は飛躍的に高まる。

パラセル諸島に新軍事拠点

中国によるアンテロープ礁拡張工事の目的は、大きく3点あげられる。第一に、海南島にある原子力潜水艦基地の防衛能力の強化である。アジア最大級の原潜地下基地を擁する海南島はパラセル諸島に近く、常に米国の監視下に置かれている。アンテロープ礁はウッディー島を補完する絶好の位置にあり、ここに拠点を設けることで原潜を護衛する戦闘機の運用能力向上が期待できる。

第二に、ベトナムへの圧力である。アンテロープ礁はベトナムが主張する中国との海洋境界付近に位置し、中国が周辺海域の実効支配を既成事実化するのに好都合である。第三に、南シナ海を通るシーレーン(海上交通路)遮断をちらつかせる政治的恫喝である。台湾有事の場合、ホルムズ海峡でイランが商船の通航を阻止したように、中国がスプラトリーとパラセルの南北両諸島からシーレーンを挟み遮断するという脅しに利用できる。

中国は南シナ海の軍事拠点拡充を通じ、海域と空域の双方を完全に掌握する態勢を整えつつある。「法の支配」を主張するだけでは、事態は改善しない。「自由で開かれた」南シナ海のため、「航行の自由」作戦や同志国海軍との海上合同演習など、軍事的関与の常態化と、それを実行に移す断固とした政治の意志が必要だ。日本のリーダーシップが試される。(了)