公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2026.07.24 (金) 印刷する

限界を見せたクアッド外相会合 近藤正規(国際基督教大学上級准教授)

7月22日から23日にかけてマニラで開催された東南アジア諸国連合(ASEAN)関連外相会合に合わせ、日米豪印4か国によるクアッド外相会合が22日に実施された。日本からは茂木敏充外相が出席し、インド太平洋情勢について協議した。

会合では「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の推進、ASEANの中心性への支持、海洋における法の支配の重要性が改めて確認された。しかしながら、これらは従来から繰り返されてきた原則論の再確認にとどまり、現下の安全保障環境の悪化に対応する具体性や踏み込んだ内容は乏しかった。

対中抑止機能に疑問符

日本は外相会合で「力または威圧による一方的な現状変更への強い反対」を明確に表明するとともに、重要鉱物に関する輸出規制への深刻な懸念を提示した。中国がレアアース(希土類)等の戦略資源を用いて経済的威圧を強めている現状を踏まえれば、極めて妥当かつ不可欠な問題提起であった。

とはいえ、クアッド全体としては対中抑止に向けた具体的措置の提示には至っておらず、実効性の観点では依然として不十分である。特に、サプライチェーン(供給網)の再構築や重要鉱物の確保について、共同調達や輸出管理連携といった踏み込んだ枠組みは示されなかった。

さらに懸念されることは、クアッド内部の戦略的一体性の脆弱性である。インドのジャイシャンカル外相は、本会合に先立ち中国の王毅外相と個別会談を行い、サプライチェーン問題や貿易不均衡、国境問題について協議した。インド側は対中警戒姿勢を維持しつつも中印二国間関係の安定化を模索しており、対中包囲網としてのクアッドの結束には限界があることが改めて浮き彫りになった。

加えて、昨年来延期されているクアッド首脳会合が依然として日程未定である点も看過できない。首脳レベルでの意思統一が停滞している現状は、枠組み全体の政治的優先度の低下を示唆しており、対中戦略の中核としての機能に疑問符が付く。

ASEANとの連携についても、表向きは「中心性の尊重」が強調されているが、実態としてはASEANに対する中国の影響力が依然として強く、クアッド側の関与は限定的である。特に南シナ海問題において、ASEANが一枚岩で対応できていない現状を踏まえれば、単なる協力表明では対中抑止効果を期待するのは難しい。 

必要な多層的枠組みの構築

以上を踏まえれば、本会合は「現状維持の確認」にとどまり、中国の現状変更行動に対抗するための具体的かつ実効的な戦略提示には至らなかったと言わざるを得ない。
クアッドは依然として重要な枠組みではあるが、それ自体が抑止力を担保するものではない。日本としては、クアッドを補完する形で、より実効性の高い多層的な対中戦略を構築することが不可欠であろう。(了)