韓国・釜山で開催された第48回国連教育科学文化機関(ユネスコ)世界遺産委員会は7月23日、世界文化遺産に登録された新潟県の佐渡金山について、現地での解説や展示の改善を日本に求める決議を採択した。同委員会は日本に対し、採掘が行われた全ての時期を通じた「全体の歴史」を包括的に扱うよう勧告し、履行報告書を2027年12月1日までに提出するよう求めた。
強制労働の展示を目論む韓国
勧告では「全体の歴史」と表現しているが、なぜ勧告が出たかを考えるならば、焦点は戦時期の記述が不十分だとする韓国側の主張が取り入れられたと見るほかない。韓国側は戦時期の佐渡で働いた朝鮮人労働者を日本による強制連行・強制労働の被害者と認めて、日本の博物館で説明、展示せよと主張している。7月23日の韓国の聯合ニュースは、韓国外務省の関係者が「全体の歴史」について、日本による植民地時代に朝鮮半島出身者が金山で労働を強いられた歴史を含むと説明したと報じている。
2022年1月に日本政府が佐渡金山の世界遺産登録申請を行うと表明した直後に、韓国政府は、佐渡金山は朝鮮人強制労働の現場だったので世界遺産にふさわしくないと反対した。2024年7月に佐渡金山は無事に世界遺産に登録されたが、今度は展示内容に強制労働を明記せよと韓国側が要求した。今回の勧告は、韓国政府が未だに諦めていないことを証明した。
見る者の判断に委ねるのが望ましい
朝鮮人労働者に関する展示は、佐渡の相川郷土博物館で既に行われており、筆者も2025年に実際に訪れて確認した。「朝鮮半島出身者を含む鉱山労働者の暮らし」という独立したコーナーがあり、合計10枚のパネルが展示されている。パネルには、「朝鮮半島出身者を含む労働者の出身地」や「朝鮮半島出身者を含む労働者の戦時中の過酷な労働環境」等があるが、「強制労働」という文言は一か所も入っていない。展示内容としては、削岩などのきつい作業は主として朝鮮人が担っていた事実を説明している。筆者としては、若い日本人男性が徴兵のため鉱山に残っていなかったので朝鮮人が削岩を担当したことと、削岩は高賃金であったことを指摘したい。
他には、一次史料である「半島労務管理ニ付テ」(佐渡鉱業所、1943年)、「半島人労務者ニ関スル調査報告」(社団法人日本鉱山協会、1940年)、「煙草配給台帳」(佐渡鉱業所)、「特高月報」(内務省警保局保安課)の写真が掲載されている。こちらは、史料そのものの写真が展示されているだけで、説明は付けられていない。展示内容の詳細に関しては、筆者が所属する歴史認識問題研究会が発行している『歴史認識問題研究』第16号(2025年)に収録されている、西岡力「『佐渡の金山』朝鮮人展示に関する評価」に記されているので、参照してほしい。
これらの相川郷土博物館の展示は、事実のみを説明し、実際の史料を掲示して、歴史解釈は見る者の判断に委ねるというスタンスだと言える。これは、博物館の展示として間違っていない。韓国政府や一部の日本人は強制労働を主張しているが、未だに立証できておらず、学術の世界で論争となっている。論争は学界の中で議論すれば良いのであり、博物館に持ち込むものではないはずだ。したがって、相川郷土博物館の展示を変更する必要は一切ない。
歴史歪曲を許さない
現段階において、強制労働を立証する一次史料は確認されていない。強制動員真相究明ネットワークなどの人々は、佐渡金山の元労務係の杉本奏二の書簡(1974年)を引用して、実際に朝鮮半島で募集に行った人物が書簡の中で朝鮮人を駆り集めていたことを認めていると主張する。しかし、書簡にそのような記述はなく、一つの村の応募者上限20人のところ40人近くが応募してきたことが書かれている。朝鮮の人々が自主的に佐渡行きを望んだ事実を歪曲して、強制連行の証拠として紹介しているのだ。
また、韓国の研究者である李宇衍博士は佐渡で働いていたとされる韓国人労働者本人や遺族の全証言(147人)を徹底的に調査した。調査結果は『歴史認識問題研究』第17号(2025年)に掲載されているので、こちらも参照してほしい。簡潔に言えば、同じ時期に佐渡で働いていたはずの者の中で証言内容の食い違いが散見されたことや、労働で得た賃金で田んぼを購入したこと、日本人に親切にされた証言等があり、強制性の立証は困難だということが李博士の結論である。
先ほどの究明ネットワークも証言を紹介しているが、韓国の調査委員会が後遺症(珪肺)を立証する資料がないと報告書に明記しているにもかかわらず、戦後に珪肺で苦しんだと断定する書き方をしている。甚だしい場合は、600円以上の貯金を日本で下ろして帰国したという証言を、貯金は日本に残したままであるとミスリードする書き方までしている。要するに、事実を歪曲しなければ強制労働を主張できないのである。
以上述べてきたように、強制労働を立証する資料は存在しない。日本政府はその点を明確に説明し、ユネスコに対して毅然と対応してほしい。(了)




