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2013.02.26 (火) 印刷する

習体制は調整型で強硬路線、日本は安易な妥協避けよ

 川島真・東大大学院総合文化研究科准教授は2月8日、国家基本問題研究所で「中国政治・外交の動向」について語り、国基研企画委員と意見交換した。中国は3月の全国人民代表大会(全人代)で習近平国家主席、李克強首相体制が正式に発足するが、トップダウンというより相当調整型の政府になると思われ、不安定な軍との関係もあり、習総書記は自らの地盤が不安定なうちは、一般に強硬な姿勢を見せるだろう、との見通しを明らかにした。日本は安易に妥協すべきではなく、中国側の体制が固まって、特に経済面などで日本を必要とする段階まで待って折り合えばよい、との見解を述べた。
 尖閣諸島国有化についても、日本は中国側と調整していて戴秉国国務委員らある部局の人々は国有化やむなしとの判断に至ったはずなのが、おそらく8月になってひっくり返ってしまった。つまり習総書記体制の下では、中央が集団指導体制化しているので、中央の誰かがYESと言っても、たえずそれに変更が加えられる可能性があること認識していなければならない、と川島准教授は強調した。危険なのは軍部で、尖閣で海監とか漁船の争いならまだいいが、人民解放軍が出てくると、たぶん習総書記には依然それをコントロールする力は十分に備わってはいないだろう、との見方を示した。今回の中国側の射撃管制用レーダー照射事件も、中央政府の判断ではなく、恐らく軍の現場の一定の地位のところの判断で実行してしまったのではないか。このような行為について、中国軍には敵対のルールが分かっていない向きもあるようで、川島准教授は、突発的な事故が起こりやすいことを懸念した。

 経済から安保優先路線に転換、2006年から2008年にかけ
 川島准教授によると、共産党内部の政策対立は比較的明確になっており、「学級崩壊」しているとの見方もある、という。また、道路閥、石油閥、鉄道閥などの利益団体の対立や、社会保障重視の左派、保守派と、経済発展第一の右派、革新派の対立軸もある。江沢民派と胡錦濤派、さらに太子派の三つ巴とよく言われるが、それほど単純なものではない、という。
 中国が直面している諸問題について、川島准教授は、第一に労働力の減少や賃金の上昇に伴って必要となる経済の構造転換の可否、第二に、地方と都市部子弟の間にある教育や就職の機会を巡る不平等や農民工の存在など社会的不公正の是正と対策、第三に、人口増のなかでも急速な高齢化がもたらす、不安定な社会保障体制の確立、第四に、ナショナリズムと尽きぬ被害者意識の調整、第五に急速に強化されている軍事力の問題などがあるという。
 日中関係も、2006年から2008年にかけての中国外交の大きな転換で変化してきた。経済を重視して諸外国との協調を重視した温家宝グループが後退し、安全保障や主権を経済と同等、あるいは優先させる路線に転換したため、それまでは政経分離であったものが、政治の冷たさが経済に及ぶようになった、と川島准教授はみる。
 中国の脅威について、米欧は地理的に離れているので、受け止め方が弱い。これに対し、アジア諸国は経済面での対中依存があっても、領土問題を抱え、また中国の脅威を感じているので、反中感情が急速に高まっている。だが、中国の経済もまた盤石ではない。中国共産党は国民の豊かさを保障する経済発展を必要としており、外資依存体制をなかなか脱せず、日本の存在は依然として大きい。この点で、日本に厳しい姿勢をとり続けるのは困難で、やがてゆっくりと経済面で妥協をはかってくるのではないか、と川島准教授はいう。(文責・国基研)

13.2.8