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2013.03.15 (金) 印刷する

「歴史問題でも中国に甘いアメリカ」 ロナルド・モース 元麗澤大学教授

ロナルド・モース元麗澤大学教授は3月1日、国家基本問題研究所で、「日米首脳会談と日本の歴史認識問題」について語り、同研究所企画委員と意見交換を行った。モース氏は、民俗学の名著「遠野物語」(柳田國男著)の英訳者として知られ、日本文化に造詣の深い専門家だが、歴史認識問題になると企画委メンバーとの見解の相違が明白だった。

モース氏は、先の安倍首相訪米、オバマ米政権の外交、歴史認識の三点について大要以下のように語った。

13.31

日米首脳会談

安倍首相にとっては元々難しい訪問であった。アジアにおける日本のあり方に対し、安倍とオバマには大きな違いがあった。ホワイトハウスは安倍が中国に関し批判的な発言をしないかどうかに強い懸念を抱いていた。オバマ政権の外交担当は言ってみればほぼ全員が親中国である。安倍はブッシュ前大統領に近かった。

オバマにとって幸いだったのは、安倍が経済と日米同盟の強化に焦点を合わせたことだった。第一段階はうまくいった。問題は7月の参院選後に安倍がどんな主張を展開するかだ。国境を越えた「子の連れ去り」について取り決めたハーグ条約の締結を強く日本に迫っていたアメリカだったが、安倍首相が日本政府受け入れの決定を手土産に訪米したのに、何らの反応も示さなかった。あまり意味のないことで日本に圧力をかけるのが今の日米関係の象徴ともいえよう。

オバマ外交

オバマは、外交で政府の介入を最小限にする「ミニマリスト」だ。ヨーロッパは経済が停滞、中東には米戦略がない、アフリカは危機的な状況で、オバマ政権は内向きになっている。希望があるのはアジアだけで、アジアへの「ピボット(軸足)」や「リバランシング」政策と米政権は呼んでいる。

ブッシュが「出かけていって戦う」のとは真逆で、オバマは「平和が第一で、戦うことはしない」。アフガニスタンからの米軍撤退期限を明確にしたのは愚の骨頂で、タリバンやテログループは手ぐすねをひいて攻撃の時を待ち構えている。

歴史認識

安倍はワシントンの演説で「日本は戻ってきた」と強調したが、どんな日本を考えているのだろうか?戦前の日本、戦後の日本、吉田(茂)型、或いは岸(信介)型なのか。これから日本問題を解決するのに役立つモデルについて、私はドイツ・モデルを提案したい。

ドイツは ①経済力を使ってヨーロッパの調停者になった。共産、専制中国は調停者にはなれない ②靖国神社、従軍慰安婦、南京虐殺事件等、日本はこれまでに56回も謝罪したが、効き目がなかった ③ドイツはホロコースト(ナチによるユダヤ人大虐殺)という悪霊を追い払って、外交上の障害を取り除いた。殺害者の数を争うのは意味が無い。真実はどうでもいいのだとさえいえる ④日本に百良いところがあっても、十悪いことがあると日本の外交を台無しにしてしまう。過去の問題のために将来を犠牲にすべきではない。

さらに、モース氏は、日本が対外広報に回す予算が中国の対外工作予算とは比べ物にならないほど低いことに問題があるとの指摘に対し、予算額の問題ではないと一蹴した。

また、日本は自らの国柄についての説明が下手なため、中国や韓国、或いはアメリカが「日本の定義」乗り出すのだ、と述べた。

中国によるチベットやウイグル、内モンゴルの“民族浄化”、東、南シナ海での強引な領土拡張、環境破壊などに対して、アメリカ人は一般的に「中国がやっていることは悪いことだが、昔はもっとひどかった。中国が我々のようになるのにはまだ20年はかかる。正しい方向に向かっている」と中国に対し寛容であるとの見解をモール氏は示し、国基研側との溝は埋まらなかった。

(文責 国基研)