ロナルド・モース元麗澤大学教授は7月26日、国家基本問題研究所のゲスト・スピーカーとして参議院選挙後の「安倍政権の今後とアメリカとの関係」について語り、同研究所の企画委員と意見交換を行った。モース氏は同研究所の客員研究員でもある。モース氏の主な発言内容は次の通り。
安倍首相は民族主義、現実主義、どちらなの
安倍首相が今までの日本の政治家と違うのは、外圧、特にアメリカからの圧力なしに、自ら政策、外交を考えて実行していることで、これが最も重要な点だ。まさに選挙で大勝した7月21日は日本の「独立記念日」ともいえるのではないか。アベノミクスの勢いもあり、忘れかけられていた日本が再び戻ってきた。ウォールストリート・ジャーナル紙などアメリカの主要紙にはほぼ毎日のように日本、或いは日本関連の記事が出ている。
安倍政権はどちらに向かおうとしているのか。安倍首相は民族主義者なのか、現実主義者なのか。アメリカには不安感があり、ホワイトハウスは数回、慰安婦など歴史認識問題で警告を発しており、安倍首相に対し、問題を引き起こさないよう、メッセージを送っている。安倍首相に対するオバマ大統領の受け止め方は、あまり肯定的ではない。大統領はリベラルな黒人であり、一方の首相は保守主義者、大きな違いがある。
リベラルなケネディ新大使との関係は難しく?
キャロライン・ケネディ新駐日大使の任命も、オバマ大統領の日本に対する理解不足を表している。彼女はリベラルな女性弁護士であるうえ、日本の関心とは全く別の問題に関心を抱いている。日本の保守的な考えを前向きに受け止めていないので、新大使と日本の関係は難しい時期に入りかねない。
はっきりしているのは、安倍首相が問題を抱えているのは韓国、中国など2、3か国だけだ。日本をコントロールしておきたい“アメリカ”もそうだ。世界の95%の国は日本にリーダーになることを望んでいる。日本の民族主義を懸念するオバマ政権は、親中派の人々で固められていたが、第二期政権になって、その傾向はさらに強まっている。良き対中関係を望んでいるアメリカは日本がトラブルを起こすのを嫌がっている。
繁栄する日本は軍事投資から
日本にはどこか不可解な部分がある、との根強い見方がアメリカにはある。先の大戦での自己犠牲を厭わない神風特攻隊であり、日本の宗教的色彩も馴染みがない。日本にどのように対処するのか、概念化が出来ないでいる。ところが、中国については、旧ソ連というモデルがあり、米ソ関係を米中関係に置き換えればよい、との考えがる。アメリカにあるそうした疑念を取り除くため、安倍政権に必要なのは二つのアプローチである。
第一に、目指すべき方向について新たな言葉で語ることである。例えば、日本民族の民族主義という言い方でなく、「市民的民族主義」というか、中立的な言葉を使って力強い日本、グローバルなリーダーの責任とか戦略を説明することが大事である。
第二に、隣国を刺激しかねない憲法改正に進むのではなく、まず予算をもっと投入して国防能力を向上させることである。これなら憲法を改正せずとも実行できる。イスラエルが良い見本かもしれない。軍事的な独立を優先的な目標にすべきだ。軍事技術の経済的な波及効果は大きい。経済だけに焦点を合わせていては、繁栄する日本は築けないだろう。その間、中国が攻撃的になり対日関係をさらに悪化させることがあれば、その時こそ憲法改正の好機である。国民的な合意は容易だろう。今はハイテク能力など力をつけることに投資すべきである。中国が敬意を払うのは力である。
(文責 国基研)