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2014.05.28 (水) 印刷する

「対中関係悪化しても日本経済へ甚大な影響ない」  熊谷亮丸 大和総研執行役員

大和総研執行役員・チーフエコノミストの熊谷亮丸氏は4月18日、国家基本問題研究所企画委員会で、ゲスト・スピーカーとして「中国経済の行方と日中関係」について語った。この中で、熊谷氏は、中国経済について短期的には楽観しているが、3年から5年の時間軸でみると「バブル崩壊」の可能性が強まるとの見方を明らかにした。

また、熊谷氏は、日中関係悪化の場合の日本への影響について、自動車など一部の主要産業では悪影響があると思うが、マクロ経済の視点からは日本経済に甚大な打撃を与えるものではないとの見解を示した。熊谷氏には、同総研の川村雄介副理事長も同行、討論に参加した。

以下は、熊谷氏の報告と質疑応答の概要です。

14.04.18

櫻井理事長 今日は中国経済の行方と日中関係、それからTPPの問題についても触れていただきたいと思います。

熊谷 私の中国経済の見方は一言で申し上げれば「短期・楽観、中長期・悲観」です。中国は社会主義の国ですから、向こう一、二年くらいはいかようにもカンフル剤を打って問題を先送りすることは可能です。中国には景気循環信号指数というのがあって、これは十個のデータを合成したものでプロの中国ウォッチャーが注目しているのですが、このデータから政策判断の局面を五つに分けることができます。過熱、やや過熱、安定、やや低迷、低迷と分かれて、下から二番目のレッドゾーン(「やや低迷」)に入ると、いろんな形のカンフル剤が打たれて真ん中の「安定」というところに押し戻してくる傾向が見られます。

しかし三年から五年くらいの時間軸で見ると「バブル崩壊」の可能性がかなり出てくると思っています。

高度な政治判断が要求される中国経済

中国経済で大きな問題とされるのが、シャドーバンキングです。これはノンバンクなどが例えば十パーセントくらいの金利でお金を集めて、その相当部分が焦げ付いているという問題です。社会融資総量というデータで、シャドーバンキングなどを含んだ非常に広い意味での貸し出しがGDPの何パーセントあるかを見ます。リーマンショックのあとの四兆元、つまり五十ないし六十兆円の対策で一気に比率が跳ねあがり、百九十四パーセントまできています。

トレンドラインとの差額をとると六百五十六兆円の過剰融資が存在する。最後はこの過剰融資の中で二、三割くらいが焦げ付くというのが諸外国の標準的な姿ですから、最終的には二百兆円規模の不良債権、日本のバブル崩壊が百兆円ということなので、その二倍くらいの規模で、向こう三年から五年のうちに大きな不良債権が生じてくる可能性を警戒しておく必要がある。

今、地方政府の収入の六割程度が不動産からの収入に頼っているということですから、自転車操業的にやっているものが将来は崩壊する可能性があるのではないかと思います。

今週、中国GDPのデータが出ましたが、これが七・四パーセント。政府の目標が七・五パーセント、市場の事前コンセンサスが七・三パーセントですから、政府目標よりは低いけれども市場が見ているのよりはちょっと高いという、まさに絶妙なところにボールを落としてきた印象がある。

いろいろ中国で聞いてみると中国の統計というのは率直な話、鉛筆を舐めてつくっているところがあるとの見方が有力です。というのは、日本では統計を扱う部署は官庁のせいぜい局長クラス、現実には課長クラスの人が集計をしているわけですが、中国では閣僚クラスの人が担当している。

なぜそうしているかと聞くと、一言でいえば高度な政治判断が要求されるから。その数字をマーケットに出した時に世界中のマーケットがどういう反応をするか、そこまで含めて高度な政治判断をするから閣僚クラスがやるのだというのです。

当局としてはこのまま景気を腰折れさせるのではなく、向こう一、二年くらいは問題を先送りして、小康状態にもっていくという意向が最近の統計などからも示されているわけです。もともと成長率の目標も市場では七パーセントに落とすという見方も事前にはあったわけですが、あくまで七・五で据え置いて、経済の構造調整をするだけではなく、短期的な底割れを防いで雇用をしっかり保つという意向を政府サイド、それから党サイドがもっているということです。

中国は雇用を維持しないと政治が不安定になってくるので、表面上はハイテク、産業の高度化といっていても、実態としては雇用の吸収力が大きい旧来型の重化学工業とか、エネルギー産業とか、繊維産業とかを重視せざるを得ない。従って問題を先送りしたあとでバブルが大きくなって非常なひずみを生むのを警戒しておく必要があるのではないかと思うのです。

設備過剰が引き起こす問題

中国経済には設備過剰の問題もあります。GDP比の設備投資の割合でいうとアメリカは概ね十五パーセント程度。日本でも二十パーセント程度ですが、中国は五十パーセント弱くらい。経済の半分弱が設備投資によって賄われているわけです。インドネシアとかインドとかの発展途上国でも三十パーセントくらいで、日本の高度成長期でも三十パーセント台でしたから、かなりの設備過剰問題が存在します。

設備投資については、企業経営者が何パーセントの経済成長を前提にして投資を行っているかを逆算できるわけですが、私たちが逆算してみると中国では経済全体が十一パーセントから十二パーセントくらい、かなりの高度成長を前提にしている。ただ実力は、従来「保八」で八パーセントを保つといっていましたが、今はもうせいぜい保七だとか、実態はもっと低い可能性があるわけですから、かなりの設備のストック調整がこれから起きてくることが懸念される。

労働係数(労働投入量をGDPで割ったもの)と資本係数(資本のストックをGDPで割ったもの)のデータを見ると、中国が一九七八年の改革開放路線への転換のあとで、主として労働の効率をよくして資本装備率を上げる形で一定程度、技術の進歩を遂げてきたのがわかります。ただここ数年は設備過剰の問題などがあって、技術レベルが停滞しているのが確認できる。長い目で見るとソフトランディングするにしても、五、六パーセントくらいのところまで中国の成長が落ちてくる可能性があるのではないか。

インフレと人口問題

中国は今、政治的な理由もあって最低賃金を毎年十パーセント以上のペースで上げていて、インフレが深刻化している。従来は賃金の安価な製造拠点として巨額の直接投資を呼び込んでいたわけですけれども、そういう成長モデルが転換点を迎えつつあるのではないか。中国にとってインフレは天敵であって、天安門事件も遠因としてはインフレがあったといわれるように、インフレが起きると庶民の不満が強くなって経済、社会、政治の動乱が起きてきます。

アメリカ経済に対する依存度を縦軸に、資源高に強いか弱いかを横軸に取って、世界の国を四象限、四つのタイプに分けてみます。中国は典型的に左上の象限に位置する国であって、アメリカに依存し、資源高に対して非常に脆弱な経済構造を有している。例えば原油が上がって輸入インフレになったりすると、さらに国内事情でどんどん賃上げが進んでインフレが昂進したときに、政治的、社会的な動揺が起きてくる可能性が存在するということです。

また、「一人っ子政策」はいま若干転換していますけれども、それでも人口の将来推計をしてみると、到底、労働力人口が大きく増えていく状態にはならない。二〇二〇年には人口世界一の座がインドに移り、二〇三〇年、中国では働かない高齢者などの一人を労働者二人で支える社会になってくる。経済面で見ても人口問題が非常なネックになる可能性があります。

中国という特殊な国

それから一党独裁という政治体制の危うさの問題があります。今、中国では一日当たり五百件弱の暴動が起きている。日本の尖閣諸島国有化でも暴動が起きましたが、本質は反日というより庶民の不満がたまっていて、そこに尖閣国有化で火がついた面があるわけです。根っこの部分では中国の政治状況は非常に不安定です。その傍証として、例えば国内の治安維持費が軍事費を超えているというデータがあります。

政治的な不安定の根本にあるのは、国民の格差の問題です。「貧二代」といって、親が貧しいと子も貧しくなってしまうとか、市場経済をもじって「市長経済」、市長が潤う経済という言葉があります。上位十パーセントの富裕層が、国全部の資産の八十パーセントを占有しているということですから、それが政治への不満として鬱積しているとの見方が有力です。

先進国は輸出と内需がほとんど同じ動きをするのに、中国だけは輸出と内需がまったく反対の動きをする。逆相関で動くという、世界の中でも極めて特殊な経済構造をもっているのが中国です。これはなぜかといえば、保八、保七といって経済成長率をはじめに決めてしまうわけですから、輸出が悪ければ公共投資をじゃぶじゃぶにして、金融政策を打ち出し、内需を刺激する。輸出がよければ内需を絞るということをしているわけです。

要は社会主義の国なので、最終的な経済成長率を決めてあるからには、当面は策を弄して数字を達成してくる可能性が高い。ただそれが未来永劫続くわけではなくて、さまざまな問題を考えると将来的に調整が非常に大きなマグニチュードで起きる可能性がある。

ただ、中国経済が減速してもマクロ経済に対する影響はそれほど大きくないのではないかとも思われます。

国内の需要と輸入の相関を縦軸に、輸出と輸入の相関を横軸にとると、ほとんどの国は右上の象限に位置する。要は内需によって輸入が決まって、輸出と輸入がある程度連動しているということです。これが普通の国の姿です。ところが中国は唯一、右下の象限にあって、輸出と輸入は連動しているのだけれども、国内の需要と輸入はほとんど連動していないという傾向が見られる。

これは一言でいえば加工貿易の国なので、諸外国から資本財だとか、原材料を仕入れて、これを安価な労働力で組み立てて、アメリカやヨーロッパに輸出をする。ですから中国でバブルが崩壊したとしても、実体経済の面で見て日本がすぐに壊滅的打撃を受けるというような話にはならないのではないかと考えられるのです。

世界経済をリードするアメリカ

世界経済は一見、中国がリードしているように見えますが、やはり世界経済の趨勢を決めているのはあくまでアメリカです。例えばiPodという音楽を聴く機械が、アメリカで三百ドルくらいで売られていますが、それを中国で製造する過程で付加される価値はわずか数ドルしかない。日本製の部品などがほとんどの価値を占めて、それを中国で組み立てているだけです。

アメリカの小売売上高、個人消費のデータを見ると、それが世界の生産高に少し先行する傾向があるのがわかります。グレンジャーの因果性といって、統計的に何が何に影響しているかというのを抽出したものを見ても、やはり世界の趨勢はアメリカの小売売上高、個人消費が決めている。中国の固定投資、公共投資、設備投資、住宅投資等は、世界経済に対する因果関係が定量的に見たときに抽出されないのです。

つまり世界経済の趨勢を牽引しているのはアメリカの個人消費であって、それ次第で世界の趨勢は決まってくる。決して中国が決めているわけではないということです。だから、中国のバブルの崩壊を日本が実体経済の面で見て警戒するというほどの話ではないのではないか。

例えば対中輸出が半年減速したとして、日本のGDPの落ち方は三千億円程度。それから現地法人の売り上げが落ちたとしても二兆円落ちる程度の話です。訪日中国人が減ったときでも概ねGDPペースで千億円くらいということですから、日本全体の五百兆円のGDPとの比率で見れば〇・数パーセントくらい。決して日本経済がこれで潰滅的な打撃を受けるというほどの話ではない。

しかしその中国とどういうふうに向き合うかということですけれども、私は経済的に見て「パッシング・チャイナ」と言っております。バッシングで嫌がらせをするのではなく、もう中国は素通りするのが必要なのではないかということです。チャイナプラスワンという言葉があるように、中国だけに資産や事業を集中しないで、もっと親日的なミャンマーとか、ベトナム、インドネシアというようなところにリスク分散を図ることが必要ではないか。

中国に頼らないための戦略

日本がパッシング・チャイナをやったときにどこで生きていくかということについては、「モジュール型」と「すり合わせ型」という話があります。すり合わせ型は自動車のようにそれぞれの部品メーカーが部品を持ち寄り、きめ細かくすり合わせして製品をつくっていくやり方です。ここに日本は極めて強い力をもっている。

ただ、今の大きな流れとしては、モジュール型といって、ひとまとまりの機能をもった部品を持ち寄って、最後は組み立てるだけというような方式で、組み立ての付加価値が非常に低くなっているのです。日本はきめの細かい技術が生きるように、なるべくすり合わせ型の産業選択をしていくことが一つの柱になるべきだと考えます。

もう一つの勝負どころは、製品サイクルが長い分野。これは例えば白物家電、洗濯機や冷蔵庫です。日本はテレビなどの黒物家電で惨敗して、いま白物で捲土重来を期している。白物家電と黒物家電の違いは何かというと、製品サイクルの長さが違うわけです。

テレビなどの黒物は非常に製品サイクルが短いわけですが、白物は買い替えサイクルが十年くらいある。日本の企業が意思決定でグズグズして韓国や中国の企業に遅れをとっても、じっくり技術力で腰を据えてひっくりかえせるのが白物の世界です。加えて、重電や環境、鉄道というようなインフラ関連、産業機械です。

日本が生き残る道の一つは意思決定を早くして企業のガバナンスを変えることですが、もし意思決定が早くできないのであれば、遅れて参入してもじっくり逆転できる、製品サイクルが長いところで勝負する。これが二つ目の柱です。

三つ目として、まず素材。これはいまだに秘伝のレシピみたいなものがある分野で、例えばステルス戦闘機に塗る塗料などは東レが世界で相当なシェアを占めている状況です。そういう秘伝の素材分野の川上で勝負する。それからTOTOのウォシュレットなどがそうですが、徹底的な保守・サービスをやってそのことで製品の値崩れを防ぐというところに勝負をかける余地があるのではないか。要は「スマイルカーブ」の両端(素材分野と保守・サービス分野)で勝負する戦略です。

もともと「技術」と「芸術」の語源は同一でした。ギリシア語のテクネという言葉がラテン語のアルスになってアート、芸術になり、同じくテクネからテクニックという言葉ができた。日本は十九世紀のパリ万博に出品した有田焼や薩摩焼を見ても、実用性と芸術的な価値を兼ね備えたものをつくるのが伝統でした。

ところがいつのまにかデザインやアートの部分が忘れられて、実用性ばかりを重視するうちに、発展途上国などではマーケティング力が弱くて韓国に負けてしまう。韓国製品は技術レベルは高くないけれどもマーケティングを徹底的にやっていますから、適正な価格でまずまずのものをつくっている。加えてデザイン性も強い。

韓国ではデザイン担当の役員が副社長か専務くらいまで昇格します。日本はそういう仕組みになっていないので、マーケティングやデザインの部門を復権させて、技術レベルが高いだけではなく、消費者が本当に欲しがっているものを適正な価格でつくるのが大きな課題なのではないかと思います。

これからの日本の課題

日本人には強味があります。共存共栄の気持ちとか、思いやり、遵法意識。例えば中国ですと汚職は数百億円規模だと言われていますが、日本の場合は十万円単位で公務員が一生を棒に振るわけですから、遵法意識もまったく違っている。非常に勤勉で繊細な国民ですし、社会が柔軟で多元的な構造をもっている。このあたりをもっと国際社会でロビーイング活動などを含めて、英字のメディアなどで発信することによって、日本のいい部分をわかっていただくことが日本サイドの課題なのではないかと思います。

一九〇一年正月の報知新聞が「二十世紀の予言」を特集しています。百年後にこんなことができたらいいなという夢を二十三項目挙げました。そのうち、人間と動物が話せるようになるなどの六項目くらいはまだできていませんが、十七項目は当然のように実現しています。「八十日かかる世界一周が七日でできればいい」というのは、もう七日もかからないでできる。「人声十里に達す」というのは電話のこと。「写真電話」はテレビ電話。「買物便法」というのはインターネットショッピング。「暑寒知らず」はエアコンのことです。

このように五十年、百年の単位で見れば、人類の技術の進歩には限界がないわけです。日本は国際的な地位が落ちてきていますが、その中でも一位を取り続けているのが「イノベーションのキャパシティ」です。工夫をしていく潜在的な能力についてはいまだに日本は世界一なのです。

ですから、いろいろな規制とか、社会的な仕組み、ガバナンスの問題、そういうところをしっかり変えていけば、いま安倍政権は科学技術に力を入れていることでもあり、日本の未来は大きく花開いていく可能性があるし、また何としてもそれを実現することが必要なのではないかという考え方をしております。

以下質疑応答

―― 旧ソビエトはアメリカの軍拡に対抗して軍拡したために経済的に潰れたということがありますが、中国に関してはそのようなことはないのでしょうか。例えば空母を一隻つくると大変なお金がかかるので、むしろ中国にはどんどん空母をつくってもらって経済的に破綻してほしいという思いがあるわけですが、そういう経済へのマイナス効果は考えられないのでしょうか。

熊谷 まだ経済は持続可能だと思います。軍拡が足かせになって崩壊するというよりは、経済自体が揺らいできて、その中で重い負担として軍事の問題が出てくるということなので、日本が中国に軍拡させて崩壊に追い込むというよりは、経済のバブルがはじけるのを見守っていくという話かなと思います。

―― 通貨の話で、アメリカは経済が悪くなってもドルをどんどん刷れば乗り越えられる。中国は今、自分たちもその地位に行こうとしているのだと思います。これから三年、五年でバブルが崩壊して、不良債権が二百兆円くらいになったときに人民元をどんどん刷ったら何が起きるのですか。アメリカと同じように自分の付けを他国にまわすような形で乗り切ることはできるのですか。

熊谷 現実には乗り切れないと思います。中国は資本市場をちゃんと自由化していないわけですから、人民元を広げようとしても限界がある。二百兆円という不良債権がお金を刷れば解決できる規模のものかというと、全然レベルが違う。

不良債権がはじけたときに世界の金融市場で起き得ることは二つあって、一つは円高です。日本円は残念ながら世界経済が不安になればなるほど逃避通貨、安全通貨といわれてしまい、為替のディーラーはパブロフの犬みたいなところがあって、世界が不安だったらすぐみんな一斉に円を買うわけですから、まず円高になる。

もう一つは、中国は外貨準備が三・五兆ドルくらいあるので、これを取り崩す。要するにアメリカの債券を売るので、世界の扇の要みたいなアメリカの長期金利が急上昇する。そうすると世界の金融市場が大混乱する可能性があります。

ですから中国のバブルがはじけても実体経済のルートはそんなに心配しなくてもいいのだけれども、円高とアメリカの長期金利の上昇を受けた世界市場の大混乱をかなり警戒する必要がある。だから円高に対しては日銀が金融緩和をしなければならないし、アベノミクスの三本目の矢、構造改革をしっかり継続していかないとならない。

そしてTPPはぜひやるべきだと思っています。二つの意味があります。一つは政治的な、中国に対する安全保障です。結局、中国という、人権とか国際社会のルールとかの根本的なところで異質な考え方をすると見られている国が中心になって東アジアの秩序をつくるのか、それとも基本的な価値観を共有しているアメリカと日本が手を携えて東アジアの秩序をつくるのかという選択だと思います。

TPPが大きくなってくればだんだん興味を示さざるを得なくなるわけですから、TPPを魅力的なものにして、中国が入りたくなるような、彼らをうまく誘い込んでいくような戦略的なカードの切り方が必要です。

二点目として、TPPの経済効果として、三兆円弱、GDP比で〇・六六パーセントといわれているわけですが、これは関税引き下げの効果のみを計算したものです。実際はそんなものではない。切磋琢磨してイノベーションを起こし、非製造業の労働生産性を上げていく。あわせて法人税減税もしなければいけないのですが、そのことによって例えば労働生産性が国全体で〇・五パーセントくらい上がって、これを十数年間くらい累積したとすると、TPPは百兆円規模で日本経済にプラスの影響を与える計算になります。

そのためには抜本的な農業改革をやる必要があります。株式会社が農業に参入できるかどうかという問題もありますが、それ以上に重要な問題は減反政策だと思います。米価が高いと国内の需要は増えず、輸出も振るわず、農業が衰退していく悪循環が起きている。ですから減反政策をやめて米価を下げ、輸出競争力を高め、国内需要を喚起することが必要です。

ただし今政府が減反政策をやめるといっていますが、これには改悪の可能性もある。主食用の米と菓子、肥料、飼料用の米があるわけですが、今いわれているのは後者に補助金を注ぎ込むということです。すると主食用の米の生産は増えなくて価格は下がらない。補助金だけが増えて財政が悪くなり、農業の構造改革は全く進まないという、まさに泣きっ面に蜂のような状態になる可能性があります。

だからこそあれだけ反対していた農業団体が今度の農水省の政策には全く反対していない。そこには何か裏があるのではないかと見る専門家が少なくありません。

―― 中国がTPPに入った場合、事実上の国有企業みたいな企業体制とかは許されないし、ビジネスに関する法律とか契約とかもフェアな形で守らなければいけないので、これは中国を事実上、革新的に変えてしまう効果がありますね。おそらく一党独裁だって崩れてくると思うのですが。

熊谷 中国の最終目標は共産党体制を崩さないことです。たから、よほど追い詰められない限りTPPには入らない可能性はあります。とはいえ、蚊帳の外にいると経済的なマイナスが大きいから入らなきゃいけない、と思わせるくらいの魅力的な経済圏にしていくことが重要だと思います。

―― 日中間の衝突案件がヒートアップしたときに、中国はどの程度日本に経済的な報復措置をとりえますか。

熊谷 日中関係が悪化してもGDP比で見れば〇・一から〇・二パーセントくらいですから、それほど大きな影響にはなりません。逆に日本側も、ステルス戦闘機の塗料だとか、いくつかカードはもっているものの、決定的に中国が困るカードがあるかといわれると、そこまでのものはもっていませんが。

―― 日本の財界の連中が安倍総理のところに行って、中国を刺激するとビジネスに大きなダメージを受けるから、どうか靖国へ行かないでくださいと土下座せんばかりだけれども、それほどの大事ではないのですね。

熊谷 例えば自動車など一部の主要産業では悪影響が確かにあります。とはいえ、マクロ経済の視点からは、日本経済に甚大な打撃を与えるほどの話ではありません。

―― 円を基軸通貨の一つにするということも何年も前に議論されましたけれども、日本の経済規模が相対的に小さくなった今はその可能性はあるのでしょうか。

熊谷 現実問題としては厳しいところがあると思います。基軸通貨というのは、もちろん経済力も重要ですが、やはり軍事的な要素が非常に大きいわけです。ですからやはりアメリカのドルが少なくとも向こう数十年間は基軸通貨であり続ける可能性が高い。一部でユーロが基軸通貨になるみたいな話がありましたけれど、これも軍事などのグローバルな影響力のことを考えれば、三十年、五十年のタイムスパンでは非常に難しい話だと思います。

日本円についても基軸通貨にしていくのは難しいのですが、なるべくアジアなどで使い勝手をよくして、決済に使えるようにしていけば、為替変動の影響なども減ってくる利点もあるので、可能な範囲で進めていくことが大事だと思います。

(文責 国基研)

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