松元崇・元内閣府事務次官は11月11日(金)、国家基本問題研究所企画委員会において、「持たざる国からの脱却」と題し現在の日本経済に関する考えを述べ、櫻井よしこ理事長をはじめ企画委員らと意見交換した。
松元氏は1952年、東京生まれ。76年東大法学部卒業後大蔵省に入省、80年米スタンフォード大でMBA取得、その後主計局を中心に勤務し2004年財務省主計局次長、12年内閣府事務次官を経て14年退官。現在、第一生命経済研究所特別顧問。著書に『「持たざる国」からの脱却-日本経済は再生しうるか-』中公文庫など多数。
松元氏は、まずアベノミクスの柱である成長戦略について現役時代に関与してきた経験を踏まえ、わが国経済が停滞する原因について述べた。すなわち、世界の生産構造は、IT革命と生産基盤のモジュール化により劇的に変化したという。他の先進国は90年代からその変化に対応してきたが、わが国はその変化にきわめて鈍感だったことが、現在の経済停滞を招いたという。
具体的には、モノを作る仕組みは、工場、経営者、労働者から成り立つが、いずれもモジュール化が進む世界では、例えば労働者や経営者の中途退職、中途採用が当たり前で、転職により付加価値が高まるのが常識。一方、わが国では従来の終身雇用制がモジュール化を阻み、ひいては正規、非正規の格差にも影響しているという。
そこで日本経済再生の解を求めるなら、ドイツやスウェーデンといった他国の事例から導き出すことができるという。すなわち、シュレーダー改革のような労働市場の規制改革を進め、再雇用のための社会保障を充実させる施策を進める必要があると主張した。
最後に、わが国の社会保障給付費が他国に比し、高齢者施策に偏重していることなども指摘。現役世代への施策が少ないことや、ワークライフバランスの悪さなどが労働環境を悪くし負の連鎖を生むのであり、これを解消する施策を早急に打つべきと訴えた。
(文責 国基研)