インドの民間シンクタンク、政策研究センターのブラーマ・チェラニー教授は10月11日、東京・霞が関の霞山会館で、国家基本問題研究所の櫻井よしこ理事長をはじめ企画委員と「日印中米をめぐる国際情勢」について意見交換した。
インド政府の国家安全保障会議の顧問や外相の政策諮問グループの一員を務めるなどインドの戦略研究の第一人者であるチェラニー教授は、日本国際問題研究所が主催するシンポジウムに招かれ訪日した。
教授はまず、日本の政治的状況を概観し、総選挙後の国内政治について、保守的な政権ができる可能性が高いことから、インドのモディ政権が進める日印関係への影響を楽観視しているという。また同時に、インドが1950年に憲法制定後102回も憲法を改正してきた事例を紹介しつつ、ようやく日本も憲法改正を正面から論じる基盤ができるのではないかと期待を寄せた。
次にインドの内政について教授は、現在モディ政権はメディア主流派から反民主的というレッテル張りをされており、政権運営にも影響がでているとのこと。そこでは事実と異なる、いわゆるフィクションが新聞のトップを飾るという状況があり、その傾向はしばらく続くだろうとした。
米国のトランプ政権が打ち出すアジア政策について、たとえば、北朝鮮の挑発行為を抑え込む主役を中国とし、現在は対中圧力を段階的にかけている状況だとする。一方、北朝鮮を対中抑止の手段とも考えるだろうから、米国の次の一手は要注意と述べた。
さらに、中国が南シナ海に既得権益を着実に積み上げている中、米国が「航行の自由作戦(FON)」を実施するが、それはあくまでもシンボリックなもので、直接の効果は少ないという。他方、中国は「一帯一路」のもと着実に周辺に影響力を伸ばす。たとえばスリランカのハンバントタ港開発をはじめ、インド洋への進出も顕著であり、わが国シーレーンにも影響が及ぶ可能性を示唆した。
教授の話は歴史にも及んだ。英印関係でいえば、大英帝国によるインド統治を芸術的と表現。当時の英国による残虐行為の数々、ベンガル飢餓での人口減をチャーチルはグッドニュースとも表現。しかし、英国は謝罪しないし、インドも謝罪を要求しないという。また英国王室の王冠にはインドのダイヤが嵌められているが英国は返還しないし、インドも要求しない。何故かというと、インドは寛大で常に前を向いているからだと説明。そこには、真に民主的な政治体制、未来志向の教育制度、そしてカルマ(運命)を信ずる宗教的文化的背景があるのだとした。
最後に、日本の英字紙にも度々寄稿し多忙な教授であるが、今後とも互いに連絡を取りつつ議論を重ねていくことを確認した。
(文責 国基研)