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2018.03.02 (金) 印刷する

「人類の普遍性と多様性をどう考えるか? -エマニュエル・トッドの人類学を参照して-」 堀茂樹・慶應義塾大学名誉教授

 国家基本問題研究所の企画委員会におけるゲストスピーカーとして、慶應義塾大学名誉教授の堀茂樹氏が来所し、人類の普遍性と多様性をどう考えるかという問題を、堀氏と親交の深いエマニュエル・トッド氏の人類学を参照しつつ分かり易く説明し、櫻井よしこ理事長はじめ企画委員らと意見を交わした。

18.03.02

はじめに、氏はエマニュエル・トッド氏の人類学についての概要を説明。世界地図の上で、旧共産圏と外婚制共同体家族(いとこの結婚を許さない)の分布が被るという事実に着目すると、家族システムという枠組みを世界地図に重ね、そこに国ごとの様々な特徴が見出せるという。

すなわち、トッド氏はレヴィ・ストロースの用いた構造主義的手法で人類の普遍性と多様性について考察した。一般に人間が家庭を持ち、子孫を増やしていくという行為は、意識下の普遍的な営みである一方、人類が地域ごとに進歩する過程において多様な相違点が表出する。このように、家族という社会構成要素の性質の相違と類似によって、それぞれの国を分類していくのが、トッド氏が主張する人類学の一端だという。

例えば、外婚制共同体家族の分布はロシアや中国という旧共産圏に見られ、内婚制共同体家族はアラブやトルコなどのイスラム圏、絶対核家族は英・米、平等主義核家族は仏や南米などラテン諸国、そして直系家族が独・日などに分けられるとのこと。

他方、どのようにして多様な家族システムが世界中に定着したのかという問いに対し、歴史的な視点を取り入れることも必要であったという。

ユーラシア大陸では、当初すべて核家族であったが、時代とともに直系家族、共同体家族へと発展したが、大陸の周辺に英国などの核家族と日本などの直系家族が取り残され、多様性が出現したと見る。そして、核家族社会や直系家族社会が近代化・都市化に、より適していたことから南北・東西格差が生じたとのこと。将来、ふたたび共同体家族は核家族へ回帰していくだろうという。

堀氏は、1952年、滋賀県生まれ。慶應義塾大学名誉教授。仏文学、哲学研究、翻訳者。慶大大学院文学研究科修士課程修了後、フランス政府給付留学生としてソルボンヌ大学に留学。アゴタ・クリストフ著『悪童日記』など翻訳多数。

(文責 国基研)