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2018.05.11 (金) 印刷する

「チベット問題と習近平政権の今後」 平野聡・東京大学教授

平野聡・東京大学教授は、5月11日、国家基本問題研究所の企画委員会にて、「チベット問題と習近平政権の今後」について櫻井理事長をはじめ企画委員らと意見交換した。

18.05.11

平野教授は、善良なる仏教徒でありたいと願うチベットの人々の立場から、現代中国の問題点を語った。日本では、伏見稲荷などの日本寺院に外国人観光客が多数訪れているが、結局は日本人自身が受け入れなどの決定権を持つのが常識だが、チベットでは状況が大きく異なるという。チベット仏教寺院にも、多くの外国人観光客が訪れているが、彼らが勝手なふるまいをしても、チベットの人々に統制する権限が与えられていない。すべては北京政府の言いなりという。

このような状況に至った過程はいくつかある。一つは清末の中国激動期におけるチベットの取り込みである。それまでは、「中華十八省と満蒙蔵回」と呼ばれ、周辺諸族の独自性が担保されていた。ところが、19世紀後半の日本の近代化がもたらした中国ナショナリズムの台頭が、清帝国の領域を完全な中国化へと導いた。さらに、中国共産党時代の1951年、チベットと「十七条協定」を結ぶなどにより中国化が進むと、それに対抗する形でチベット武装蜂起が起き、以降、北京政府は徹底的にチベットを弾圧する。

習近平政権の現代中国は、憲法を改正して宗教統制を強める中、政治的には強権で支配を続けるが、他方、チベット仏教やキリスト教などは漢民族の中にも相当数の信者がいるなど、幅広く浸透し始めており、精神性において人民を完全支配することは不可能であるというのが現状という。

最後に、今後ダライラマ14世の後継者問題が浮上することにより、チベット問題は大きな転換点を迎える可能性を指摘した。

平野教授は、神奈川県出身、1994年東京大学法学部卒、法学博士。アジア政治外交史の専門家、2003年東大大学院法学政治学研究科助教授、2014年から同教授。著書『清帝国とチベット問題』で2004年サントリー学芸賞を受賞。

(文責 国基研)