2月8日、国基研企画委員会は、ゲストスピーカーとして、日本文化総合研究所代表である高森明勅氏を招き、「神道と天皇」に関する勉強会を開催し、意見交換した。
高森氏は、神道について議論するとき、ファナティックに語られることがあるが、比較宗教学という観点から客観的に分析することも重要であり、氏はその中道を行くとする。
フランスの歴史学者マルク・ブロックは、信仰の連続性において、西欧の歴史に匹敵するものは世界中、日本以外にないと喝破し、同じくフランスの社会人類学者クロード・レヴィ=ストロースは、具体的に古代からの連続性について言及しており、連綿と継続する比類なさを感じて欲しいという。
わが国の民族宗教としての神道は、人類普遍の自然宗教であり、教祖や教義のある創唱宗教とは異なる。起源は飛鳥時代あるいは平安時代とされてきたが、最近の研究では弥生、縄文時代にまでさかのぼるという。
「神道」という言葉は日本書紀が初出で、その中で用明天皇や孝徳天皇の記載中、「仏の法(仏教)」とは別に「神の道(神道)」という表現があることから、すでに神道が他の信仰とは異なるものとして認知されていたことが分かる。
さらに氏は、神道と切り離すことのできない神話の特徴を次のように指摘する。神話は大伴家持や各地の風土記などの描写にも登場し、レヴィ・ストロースが日本の神話を世界中の神話の断片が集大成されたようだとも表現するほど、多様性を持つという。また、西洋の神話で死について、ギルガメッシュ叙事詩や旧約聖書創世記でその不可避性が強調して語られるが、日本の神話では、黄泉の国で死の世界を、天の岩戸で絶望へ立ち向かう姿勢を謳っているところが特徴的だとも。
さて、宮中祭祀の重要性について、順徳天皇は『禁秘抄』に「宮中の作法は神祭りを優先し、ついで他に及ぶ」とあるように、代々の皇室は祭祀を重んじてこられた。天皇陛下はつねに心身を清め無私の境地でその祭祀に携わることで「国民統合の象徴」として、その超越性をゆるぎないものにしてこられたと氏は指摘する。
そして、御代替りの大嘗祭(即位して最初の新嘗祭)は、質素であっても新しい特別の祭場(大嘗宮)で神恩へ感謝するものである。ところが、一部報道で「茅葺き」でなく「板葺き」の屋根にするなど、伝統に則らない計画があるように聞き、氏は大変憂慮している。伝統は決して軽視してはならないと警鐘を鳴らした。
高森氏は、昭和32年、岡山県生まれ。國學院大學卒業後、神道学、歴史・皇室研究の第一人者として活躍。著書には『天皇と民の大嘗祭』『この国の生いたち』『皇室論』『天皇と元号の大研究』など多数。
(文責 国基研)