ヨーロッパにおける諸問題が専門の渡邊啓貴・帝京大学教授は、5月10日、国家基本問題研究所の企画委員会におけるゲストスピーカーとして、欧州情勢をめぐる現状と今後の見通しなどについて語り、櫻井よしこ理事長をはじめ企画委員らと意見交換した。
教授はまず、複雑な欧州情勢の全体像を概観。欧州域外環境の変化として、米国に誕生したトランプ政権、一帯一路で世界に躍進する中国、ウクライナ危機などで野心を隠さないロシアなどが、多極構造を構成して複雑な関係になっていると指摘。域内の変化としては、ユーロ債務危機、大量移民問題、域内格差などから排外主義・ポピュリズムが台頭しているとした。
このような変化のなか欧州は、対米摩擦(関税、防衛費、イラン核合意、ファーウェイ等)、対中警戒と協調(5G防衛あるいはEUアジア間のインフラ整備など)を模索しながら、「戦略的自立」を志向しているという。
他方、EUは決して一枚岩とは言えない。BREXIT(10月末まで延期)は端的な例だが、欧州統合のモメンタムは低下しつつある。最近では、G7で唯一イタリアが「一帯一路」に署名し、東欧16カ国と中国との経済協力枠組み「16+1」への対応にも各国に温度差がある。ファーウェイ問題への対応については、ドイツは特定の企業を排除しない方針。イタリアも同社との連携に積極的だが、ポーランドは厳しく取り締まるなど、各国バラバラという状況だという。
今後の欧州情勢は、今月下旬に英国も参加する欧州議会選挙があり、ポピュリズムの波がどう影響するか、EUの指導体制の変革はあるのか、など注目点は多い。
渡邊教授は、1954年生まれ。東京外国語大学卒業、パリ第一大学大学院博士課程修了。パリ高等研究大学院・リヨン高等師範大学校客員教授。1992年、『ミッテラン時代のフランス』で渋沢クローデル賞を受賞。アジア研究センター(ジョージ・ワシントン大学)客員研究員、在仏日本大使館広報文化担当公使、東京外国語大学教授などを経て本年4月から現職。著書に『フランス現代史』『ポスト帝国』『米欧同盟の協調と対立』『シャルルドゴール』など多数。
(文責・国基研)