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2020.07.03 (金) 印刷する

「ウィズコロナの中国経済の行方」 齋藤尚登・大和総研主席研究員

 中国経済を専門とする大和総研主席研究員の齋藤尚登氏は、7月3日、国家基本問題研究所の定例企画委員会のゲストスピーカーとして、新型コロナウイルスが中国経済に与える影響などについて、櫻井よしこ理事長をはじめ企画委員らと意見交換をした。

まず、新型コロナウイルス肺炎の初動で、中国政府の対応についてだが、最初の症例が確認されたのが昨年12月8日で、WHOへの報告は12月31日。中国政府とWHOの発表は1月20日。他方、「春運(旧正月前後の特別輸送)」が1月10日に始まり、武漢封鎖(1月23日)及び海外団体旅行が禁止(1月27日)されるまで、感染者は全世界にバラまかれることになった。中国政府の初動対応にミスがあったと思われても仕方がない。

その後、中国政府は極めて厳格な感染拡大抑制策を実施し、人との接触、人の移動を制限した。例えばスマホ情報の登録など、個人情報の管理を徹底したことは、ウイルスの制圧に効果的であった。一方、経済は停滞し、観光、娯楽、交通などに壊滅的打撃を与え、また鉱工業生産、固定資産投資にも悪影響を及ぼし、1月~3月期の景気は急速に冷え込んだ。3月以降、生産部門が息を吹き返し、他国の感染が拡大する中、輸出は堅調であったたが、内需の戻りはいまだ鈍い。

コロナ後の中国経済の動向は、住宅販売は増加、非接触移動手段の自動車販売も好調、ネットセールは大盛況の一方、失業率は昨年の5%から6%になり非常に厳しい状況で、農民工(地方出身の単純労働者)を統計に加えれば、さらに貧富の格差が広がることになる。

5月22日に開幕した全人代・政府活動報告では、未曽有の難局のため、政府の成長率目標を提示することが出来なかったことが示すように、中国の需要減退はしばらく続き、景気回復も緩やかに推移すると見込まれる。

さらに、世界的にサプライチェーンの中国依存を再考する動きが加速すると予想される。わが国も、戦略的に重要な物資について、政府がコストを負担してでも国内回帰を図ることが必要かもしれない。

さて、香港問題だが、5月28日に全人代が香港における反中国的行為を取り締まる国家安全維持法の導入を決定、6月30日には、全人代常務委員会が香港の立法会(議会)を経ないで同法を可決した。

中国政府は香港に国家安全維持公署を設置し、国家分裂、政権転覆、テロ行為、外国勢力による介入活動を取り締まる。これで、香港の高度な自治を認めた一国二制度は形骸化したと言えるのではないか。9月に香港立法会(議会)選挙があるが、「香港問題は中国問題」と捉える中国政府の出方を今後とも注視したい。

【略歴】
齋藤氏は、1990年山一證券経済研究所に入社、香港駐在を経て1998年大和総研に加わり、2003年から7年間、北京駐在、2015年に主席研究員、経済調査部担当部長。

(文責 国基研)