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2020.09.28 (月) 印刷する

「中国とインドの国境紛争」 近藤正規・国際基督教大学上級准教授

 近藤正規・国際基督教大学上級准教授は9月25日、国家基本問題研究所の企画委員会において中印国境紛争の様々な側面について語り、櫻井よしこ理事長をはじめ企画委員らと幅広く意見を交換した。近藤上級准教授の発言内容は概略次のとおり。

中印衝突の経緯
本年5月5日、インド北部チベット高原のラダックにある秘境パンゴン湖のほとりで両軍が衝突し負傷者が出た。9日にはシッキム州国境でも両軍が対峙、翌10日にはパンゴン湖で再び睨み合いが生起。6月15日、その近くのガルワン渓谷で両軍が衝突し、インド兵20名、中国兵35~43名の死者が出た。

過去には、1962年の中印紛争(ラダックとアルナチャルプラデシュ)で中国が圧勝し、1975年に再びアルナチャルプラデシュで衝突し、インド兵4名が死亡したが、両軍合わせて死者が出たのは、それ以来になる。

衝突の背景
今回の衝突の背景には、中国共産党政権による新型感染症後の拡張政策もあるが、そもそもチベット周辺地域の併合という大目標を軽く見てはならない。チベットを掌とするとラダック、ネパール、シッキム、ブータン、アルナチャルプラデシュという5本指が、その重要な周辺地域と呼ばれる。インドは、ジャムカシミール州をラダックとアクサイチンを含む連邦直轄領に改編した。アクサイチンは中国が実効支配しており、反発を呼ぶ原因となった。さらに、チベット国境周辺の道路整備などインフラ開発を進めてきたことが中国を敏感にさせた。

急速な反中感情の高まり
歴代のインド指導層は非同盟主義で、特にガンジー家は親中、外交官は対中弱腰と見られる。モディ首相も当初は、経済活動を優先する上で対中宥和路線であった。しかし、インド国内で中国製携帯電話の問題などによる反中感情が、燎原の火のごとく燃え広がる中、6月15日の軍事衝突が生起したことで、インド政府の対中姿勢が転換されたようだ。

インドの対抗策
具体的な経済制裁としては、中国製ソフトウェアを禁止し、5Gトライアルからファーウェイ・ZTEを排除し、高速道路事業への中国企業の投資を禁止するなどだ。防衛面では、フランスからラファール戦闘機36機を購入していた中の5機が届けられたほか、ロシアの防空システムS-400が5セット来年到着する予定で、米国製の無人航空機リーパーを30機導入するなど、装備の充実を図っている。

まとめ
中印国境付近の現状は、双方が5万人程度の兵士を常駐させ対峙しているが、交渉は難航している。インドが譲れないラインまで中国軍が撤退する様子ないことに加え、万一戦争になっても中国の経済規模はインドの5倍あり、軍事支出も差がある。中国は世論をコントロールできる利点も大きい。今後、中印関係回復には時間がかかるだろう。

日本としては、クアッドの推進やインド東北部でのインフラ整備などによってインドの側面支援をしていくことが期待される。インドにとって今後の対中関係の見直しは必須である。日本としても注意深く見守って行くべきであろう。

【略歴】
近藤上級准教授は1961年生まれ。スタンフォード大学博士(開発経済学)。アジア開発銀行、世界銀行等にて勤務の後、1998年より国際基督教大学助教授、2007年より現職。2006 年よりインド経済研究所客員主任研究員、日印協会理事を兼任、2011年よりハーバード大学客員研究員。財務省「インド研究会」座長、日印合同研究会委員、国基研では客員研究員を務める。専門は開発経済、インド経済。主な著書に『現代インドを知るための60章』(共著、明石書店、2007)など。

(文責・国基研)