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2020.09.18 (金) 印刷する

「中国経済と米中『新冷戦』の行方 米中関係はどこに向かうのか」 津上俊哉・国問研客員研究員

 9月18日、国基研企画委員会は、ゲストスピーカーとして、現代中国研究家の津上俊哉氏を招いた。前回(2019年11月)の意見交換では「米中『ハイテク冷戦』」を語ったが、今回は「米中『新冷戦』」と題して、米中関係が新たな段階に入ったとした上で、中国経済や米中関係の行方を語り、櫻井理事長をはじめ企画委員らと意見交換した。

中国でコロナ感染は収まったと見るべきか。政府の発表を信用しない傾向がある人民だが、その生活態度を見ると緊張感は確実に緩んできていることから、すでに収束局面だと推察できる。しかし、この感染症が世界経済のみならず中国経済に与えた影響は甚大で、特に人民の消費、製造業の輸出などの回復には至っていない。

このような状況を受け、中国政府が打ち出す経済運営方針のうち、10年でGDPと収入を2倍にするという目標は断念せざるを得ない。引き続き投資は促進するが、ニューエコノミーを牽引する5G通信網などの新インフラに重点的に注力。

他方、コロナ禍で自粛した国民に日米欧は現金給付したが、中国では税の減免程度。その穴を埋めるように、地方では「露店経済」が発生するという状況にある。

中国経済の弱みとしては、投資ブームにより不動産投資額が積みあがる一方、不効率投資が増加し、バブル崩壊の危険な状態にもかかわらず、政府が保証するという期待が、バブル崩壊を防いできた。ただし、地方政府や中小地銀という裾野から、この仕組みの綻びが拡大している。

また、少子高齢化の問題も差し迫っている。2014年から一人っ子政策を緩和し、翌年から二人っ子政策を実施したが、2018年には再び出生数が減少に転じ、すでに手遅れという感は否めない。実際、労働人口は2012年から減少しており、人口の高齢化が年金債務を急激に押し上げている。

さて、米中対立はさらに深刻化して全面対決の様相を呈している。懸念されるのは、強硬な米国の対中政策に、真っ向から対決する姿勢を明確にした「戦狼外交」が展開されていることだ。その要因の一部は国内にある。コロナ禍で自信をつけた中国の現体制を、肥大化した民意が歓迎し、強気の外交を後押ししている。

デジタル経済の対決では、あくまで強気の米国だが、次代において米中両陣営にブロック化するかどうかは、慎重に見極めるべきだ。特に、G20新興国や第3世界のITはアリババ、テンセント、ファーウェイなどの中国勢で占められる現状は無視できない。また、欧州は米国寄りの姿勢を示し始めたが、面従腹背、いつでも変わる可能性がある。

最後に、わが国の選択として、日本を中心に米中対立で困窮する仲間同士が国際秩序擁護のための中小国連合を作るなどで、この国難を乗り切る知恵が必要だとした。

(文責 国基研)