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2021.03.18 (木) 印刷する

なぜ政治の集権化を求め、「大国」外交を求めるのか ― 習近平指導部の政治と外交 ― 加茂具樹・慶應義塾大学教授

加茂具樹・慶應義塾大学総合政策学部教授が3月12日(金)国家基本問題研究所企画委員会に来所、現代中国の問題について概説し、櫻井よしこ理事長をはじめ企画委員らと意見交換した。

【概要】
中国政治外交の現在を考える上で重要な概念が一つある。それは「構造的パワー」である。3月11日に閉幕した全人代において採択された第14次五カ年計画と2035年までの長期発展計画もまた、この「構造的パワー」の強化を目的としたものである。

さて、全人代後の政治日程を見ると、今年7月には党創立100周年、来年2月に冬季五輪、秋に党大会と、重要イベントが目白押しだ。したがって中国指導部にとって、短期的に最も重要な政治課題は、安定して安全な国内・国際環境を維持し、経済発展を実現するための条件を整えることになるだろう。国内では新型コロナ対策を押し返すことに成功し、昨年度は2.3%の経済成長を実現した。とはいえ就業問題は依然として重要な政策課題であり、経済成長を実現させてゆく必要がある。国外では対米貿易摩擦などがあり、国際環境は不安定である。したがって、中国指導部は、重要な政治イベントを成功させるために、権力を集中させてこれらの諸課題に対処し、成果を上げる必要がある。

中国指導部は、自らの対外政策を「大国」外交という。この「大国」と「大国」外交という概念を理解するためには「構造的パワー」とは何かを理解する必要がある。中国指導部が言う「大国」(Major Country)とは「世界平和に影響を与える決定的なパワー」(王毅・外交部長)というように、単なる規模の大小や重要性の高低を表すものではない。指導部は、その「大国」をかたちづくるパワーとして「構造的パワー」という概念を重視している。

「構造的パワー」とは、国際政治学の「パワー」を説明する基本的な概念の1つである。国際社会での「ゲームのルール」を設定し、その遵守できる国家のパワーであり、軍事力などの直接的パワーを使わずに自らに有利なように行動させるパワーのことである。中国の公式文献のなかには、これに類似した中国語「制度性話語権」(Institutional Discourse Power)という言葉がある。ある中国の研究者は、この「制度性話語権」を拡大するための具体的取り組みとして次のようなものを掲げている。世界銀行や国際通貨基金(IMF)といった既存の国際制度における議題設定権や議決権の拡大、そしてBRI(一帯一路)やAIIB(アジアインフラ投資銀行)など中国が主導する国際制度の構築であり、さらに深海底やサイバー・極地・宇宙等の新しい領域において国際制度の構築を中国が先導すること、である。

では何故中国は構造的パワーを求めるのか。中国は、米国の覇権が長期に及ぶ理由を、軍事力や経済力などの他に「制度覇権」、つまり構造的パワーを掌握してきたから、と理解している。「制度覇権」の制度とは、西側世界=世界の政治経済秩序をかたちづくっている世界銀行やIMFを指す。中国は、米国がこれらの制度における議題設定権や人事権を掌握してきたから長期にわたって覇権国としての地位を占めることができている、と考えている。

また中国は、自国と既存の国際秩序との関係を「アメリカが主導する国際秩序はまだ完全に中国を受け入れていない」(傅瑩・元外交副部長)と言う言葉が表すように理解している。いまの中国は、このような不安全感を克服するため、自らの要求を既存の制度のなかに埋め込むような外交を展開している。

今後中国は、集権政治を強化する中で経済の発展を維持できるのかということにも注目していきたい。これまで中国経済を牽引してきたのはアリババなどの民営企業がイノベーションを成し遂げてきたことによる。これに対し昨年7月の企業家座談会や11月の江蘇視察などでは、企業活動に対して「愛国」性を求める方針が示された。こうした動きは企業のイノベーションに後ろ向きの力を与えるのではないか大いに危惧される。

【略歴】
1995年、慶應義塾大学総合政策学部卒業、2001年、同大学院政策・メディア研究科博士課程修了、2004年博士(政策・メディア)。専門は現代中国政治外交。
1995年に中国の復旦大学に留学、2000年在香港総領事館専門調査員などを経て、2015年から現職。その間、國立台湾師範大学政治学研究所訪問研究員、カリフォルニア大学バークレー校東アジア研究所現代中国研究センター訪問研究員、國立政治大学国際事務学院客員准教授、2016年から2年間は在香港日本国総領事館領事として勤務。
著書に『現代中国政治と人民代表大会 人代の機能改革と「領導・被領導」関係の変化』(慶応義塾大学出版会、2006年)、編著に『「大国」としての中国』(一藝社、2017年)『中国対外行動の源泉(慶応義塾大学東アジア研究所 現代中国政治シリーズ)』(慶応義塾大学出版会、2017年)など多数。  

(文責 国基研)