国基研企画委員の田村秀男・産経新聞特別記者は、7月1日、国家基本問題研究所企画委員会にて、現下の経済情勢について語り、その後櫻井理事長をはじめ他の企画委員と意見交換しました。その後、田村氏は、『国基研チャンネル』にも出演してサマリーを解説しました。こちらも下記【概要】と併せてご視聴いただければ幸いです。
【概要】
参議院選挙が酣の日本だが、気の抜けた平和の中にいるかのような主張しか聞こえてこない。選挙戦ではウクライナ戦争が円安の原因だというもっともらしい説明もあるが、それは一部でしかない。現在の円安はその前からあり、より問題なのはそれが急激だということ。
実態を見ると米国の短期金利に連動して急上昇しており、これは投機に基づいている。米国との金利差がある限り日本の円資金がオフショア市場、つまり海外に流れていく。そのカネは邦銀が提供するという構図である。ただ投機には不透明さがつきものなので、一夜にしてこの局面が変わる場合もあるが、いまは安定させることが重要である。
他方、消費者物価指数は2021年初頭から上昇傾向にあり、ウクライナ戦争の開始が主な原因というわけではない。米国はインフレ率2%程度の中、財政出動でGDP対前年度比を上昇させた。日本はデフレ不況を脱出できずに、政府の財政出動があってもGDPは低迷を続けている。
日本の通貨の実力とも言われる実質実効相場を見ると1990年代半ばから右肩下がりが続いている。つまり、物価、賃金が停滞し、円の実力が下がり続けており、言い換えれば国力が低下しているのである。このままでは相対的に強い人民元が日本を買い漁るのに、歯止めをかけることができない。
このようなデフレ下にある日本では、企業の内部留保(利益剰余金)は増えても、設備投資と賃金が低く抑えられたまま。多くの大企業では会社は株主のものという考えから、企業内には利益剰余金を増やすことを「善」とする風潮がある。経団連などには、このような企業風土の変革を促す努力が求められる。
例えば、資本金1億円未満の中堅中小企業では、円安に連動して設備投資を前年度比で増額している。これに対し資本金10億円以上の大企業では設備投資が伸びず、逆に海外には投資する傾向がある。企業努力をする中小企業が元気になり大企業にも影響を与えるなら、日本全体の経済活性化に繋がるはずだ。
さて、ウクライナ戦争が世界金融のドル覇権に影響を及ぼし、新たな局面が表面化してきた。経済制裁としてスイフトからのロシア締め出しを狙った西側だったが、ルーブルの下落は3月だけに留まった。いまはルーブル高が進み、ロシアの物価高もピークアウトした。現状は西側の意図とは反対に金融制裁にロシアが耐えている。その要因は中国人民銀行がルーブルを下支えているからだ。
加えて中国のロシア原油輸入がウクライナ戦争以降、拡大している。OPEC原油相場が上昇する反面、ロシア原油の輸入相場は下がり、中国が漁夫の利を得ている。
対抗する西側は結束して対中国を打ち出すべきなのだが、先のG7コミュニケはレトリックだけは立派だったが、実質を伴っていない。どんなに非難の言葉を並べても中国政府にとっては馬耳東風でしかないだろう。
(文責 国基研)
第170回 G7とNATO首脳会議での共同声明に経済的効果は少ない。
ロシア産石油は中国が低価格で買いたたく。ロシアへの金融制裁も中国が下支え。結局中国が漁夫の利を得る。弱い共同声明では意味がない。