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2022.08.18 (木) 印刷する

「中国をどう捉えるか」 高原明生・東京大学教授

8月10日、高原明生・東京大学教授が国基研企画委員会でゲストスピーカーとして報告し、櫻井よしこ理事長をはじめ企画委員らと意見交換をした。
高原教授は、日本人には理解が及ばない部分の多い中国という国をどう捉えたらいいのか、いくつかの視点をもとに解説し、最後に日中関係の今後について語った。講話の概要は以下の通り。

【概要】
近くて解りにくい中国という国だが、その地理的大きさは日本人には理解しがたい広大さで、これを統治する困難さは想像に余りある。この広大な領域、特に地方には諸侯と呼ばれる実力者が跋扈する。名目上、民主集中制を標榜する中国だが、習近平の潜在的な敵はこの諸侯ということである。

諸侯たちの支配する地方を一つにまとめるため、共産党は抜きんでた力により国内の秩序維持を図っている。決して法で支配しているわけではない。この「共産党の平和」(パックス・コミュニスタ)の延長上にパックス・シニカ(中国が支配する世界)を夢想する一部勢力が存在する一方、一部には奮闘する人権派弁護士などもいることも付言しておく。

実際、中国国内の権力闘争は文化大革命(1966~76)、林彪事件(1971)を始め多数あり、天安門事件(1989)が生起するとは誰もが予想できず、奇跡的な経済成長を成し遂げるなど、総じて中国には予測不能性があると言える。

また、国内には様々な論争があり、いわゆる分断社会ともいえる。例えば、経済改革・政治改革に対して賛否が分かれ、人権などの普遍的価値も賛否があり、ロシアのウクライナ侵攻にも支持と不支持が分かれる。

ただし、民意は「大きいこと、強いことは良いことだ」という「力とカネ」への信奉が強く、近代化とともに富国強兵、反西洋の気運があり、ナショナリズムの高まりを見せる。

さて、近年米中間では戦略的競争関係が問題となっているが、全般的には米国の利点が多いようだ。いずれにも利点、欠点はあるが、このまま放置すると中国経済は減速していくことになるだろう。
さらに中国近代化(民主化、法治化、市場化、透明化等)の上では共産党一党支配と矛盾することになるのだが、今後どう折り合いをつけていくかが課題となる。コロナ後の時代では、党による支配の正統性の危機が再来し、ナショナリズムへ一層依存するようになるのではないか。

最後に、今後の日中関係について。現在の日中関係には強靭性と脆弱性の二面性がある。前者は経済的相互依存関係、後者は軍事力の不均衡や東シナ海の緊張関係などである。暫くは経済分野での協力を深化させつつ、軍事分野で競争するという、同時進行を余儀なくされるだろう。

置かれた環境は違うがインドの外交は参考になる。インドはQUADのメンバーであるし、中国と安全保障面で厳しく対峙しながら、経済面ではBRICSや上海協力機構のメンバーでもある。わが国もインド同様、矛盾を抱えて生きる強さ、したたかさが求められる。

【略歴】
1958年神戸市生まれ。1981年東京大学法学部卒業、1988年サセックス大学開発問題研究所博士課程修了。1989年在香港日本国総領事館専門調査員、1993年桜美林大学国際学部助教授、2000年立教大学法学部教授、2005年東京大学法学部教授などを歴任し、2018年から20年まで東京大学公共政策大学院院長を兼任。2020年からJICA緒方貞子平和開発研究所所長を兼任。
主な著書に、The Politics of Wage Policy in Post-Revolutionary China (Macmillan, 1992)、『証言 戦後日中関係秘史』(共編、岩波書店、2020年)、『中国の外交戦略と世界秩序』(共編、昭和堂、2019年)、『シリーズ中国近現代史⑤ 開発主義の時代へ1972-2014』(共著、岩波書店、2014年)など多数。  (文責:国基研)