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2022.09.20 (火) 印刷する

『身近に起きている見えざる侵略』 平井宏治・株式会社アシスト社長

9月16日、平井宏治・株式会社アシスト社長が国基研企画委員会でゲストスピーカーとして報告し、櫻井よしこ理事長をはじめ企画委員らと意見交換をした。平井氏はわが国の経済安全保障に関し現場の視点で語った。講話の概要は以下の通り。

【概要】
米国の安全保障に脅威となる中国企業への締め付け

2018年、米国は安全保障上の観点から2019年度国防権限法と同時に輸出管理改革法(ECRA)を立法化し施行した。ECRAは、ファーウェイ、ZTE、ハイクビジョン、ダーファテクノロジー、ハイテラコミュニケーションズの 5 社製の通信・監視関連の機器やサービスを利用している企業の製品やサービスを米国政府調達機関が調達することを禁止した。米国当局は、これら企業の機器には、使用者が気づかぬうちに、使用者の情報システム内部から中国が用意したサーバーに通信をするプログラムが仕掛けられ、通信内容が丸裸にされると指摘する。米国政府は同国政府機関と取引を行う外国企業にも3次サプライヤーまで当該5社に関わる不使用の確認を要求する。さらに、2021年には、米連邦通信委員会(FCC)は、米国の安全保障に脅威とみなす中国企業として、前述の5社の機器を米国内通信ネットワークから完全に排除するための新規則を全会一致で採択した。

金融面では、トランプ前政権は大統領令で米国の全ての投資家に中国の軍産複合体企業が発行する有価証券の取引を禁止した。バイデン政権も新大統領令でこの方針を引き継ぎ、現在は中国の軍産複合体企業68社が公表されている。

日本の規制は穴が多い

一方、日本には米国のような中国軍産複合体企業との金融取引を禁止する法律がなく、日本の投資家が、社債などを引き受けると、資金提供をすることになり、間接的に中国の軍備近代化に貢献してしまう。わが国の安全保障に悪影響を与えることは言うまでもない。

中国には、国家国防科技工業局が監督する人民解放軍系の七つの大学(国防七校)があり、中国軍と兵器の共同開発を行っている。その国防七校と日本の主要大学とが提携し、国防七校から人民解放軍の技術者などを留学生として受け入れ、機微技術や軍民両用技術を研究させている。これらの留学生が帰国後、研究した技術を軍事転用し、日本の平和の脅威となる事態を引き起こしている。一例だが、某国立大学は、中国の軍事技術者を助教授として迎え入れ、科研費を支給し、流体力学を研究させた。この助教授は帰国後、極超音速ミサイルの開発に多大な貢献をしたとされる。日本学術会議は、軍事研究への協力を拒否し、日本の防衛研究に協力しないと宣言しておきながら、日本の学術界は、中国の最新兵器開発を間接的に支援しているのである。

問題ある機器が放置される日本の実態

今年5月、経済安全保障推進法が成立した。同法には4本の柱があるが、その1つが、基幹インフラ機能を維持するために安全性・信頼性を確保することだ。基幹インフラに対するサイバー攻撃を防ぐため、特定重要設備導入時に、バックドアや悪意のある部品により情報漏洩の懸念がある製品がないかを確認し、問題のある機器を安価という理由で購入しないよう指導していくことになる。基幹インフラは14の産業分野で、電気通信分野も含まれる。

日本の実態は、ウイグル族の監視に利用するなど人道上の問題に加担しているとされるハイクビジョンの監視カメラを販売していたり、ウイグル人の顔認証に強いとされる中国企業の技術を使う製品を販売したりする企業がある。ハイクビジョンの監視カメラは、カメラが目となり収集したデータをAI分析し、中国治安部隊の目や脳の役割を果たすと指摘されている。監視カメラにバックドアが仕掛けられていれば、映像情報データが中国に飛ばされ、筒抜けになることが懸念される。

また、一部の通信事業者は、ファーウェイやZTEが製造したルーター(通信機器)などを堂々と販売しており、これらの機器に仕掛けられたバックドアから機密情報が中国に筒抜けになっていることが懸念される。実際、現在の法制度では、米国が規制対象とする中国製品を日本市場から排除するための直接的な規制は期待できない。民間企業自身の努力だけでは対応しきれない状況にも留意することが必要だ。しかし、こうしている間にも、懸念通信機器からバックドアを使い、わが国の機密情報が盗み取られ続けていることも現実である。わが国は少なくとも、米国が規制対象とする中国企業については、日本国内で蓋をしていくことが必要である。

TikTokの問題

TikTokは数十秒から数分程度まで、短い動画をシェアできるサービスで、中国のByteDance社が運営している。同社は非上場企業だが、中国政府系投資機関も株式を保有していると言われている。米国では、TikTokの利用者が、若者を中心に増え続けている。個人情報を含むデータが、サイバー空間にアップされ、ビッグデータになっている。これらのデータを収集分析し、偽情報を流すことで、国家の分断を進めたり、プロパガンダを広める手段として使用したりすることができる。約2割が誤情報を含むとの指摘もある。

また、人工知能を投入することで、ビッグデータからターゲットにした人物の情報を抽出し、プロフィールを作成して工作活動に利用されるのではないかとの指摘もある。今年6月、米国の報道機関が、「ByteDanceの中国拠点の従業員が、米国のTikTokユーザーに関する非公開データに繰り返しアクセスした」とスクープし、国家安全保障上の懸念が再浮上している。

ところが、日本のデジタル庁はTikTokを使いマイナンバーカードの広報を始めている。民間企業や個人と違い、政府が率先して利用するのは、サイバーセキュリティに対する危機意識が欠如していると指摘しても過言ではないだろう。

【略歴】
1958年生まれ。1982年電機メーカー入社。1991年からM&Aや事業再生の助言支援を行う。2016年からメディアへの寄稿や講演会などを行うアシスト社長。2020年から日本戦略研究フォーラム政策提言委員。著書に『経済安全保障リスク 米中対立が突き付けたビジネスの課題』、『トヨタが中国に接収される日』、『経済安全保障のジレンマ 米中対立で迫られる日本企業の決断』がある。早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。

(文責:国基研)