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2022.12.12 (月) 印刷する

「web3がもたらす社会変革」 伊藤穰一 デジタルガレージ取締役・共同創業者

伊藤穰一氏は、12月9日、国家基本問題研究所の定例企画委員会でゲストスピーカーとして来所し、今話題のweb3がもたらす社会変革について講演し、その後企画委員らと意見を交換した。講演の概要は以下のとおり。

会計の歴史と未来

会計の歴史というのは7000年前に遡る。メソポタミアの時代には土器を使用し現在の単式簿記などが行われていた。その後イタリアの商社が複式簿記を使い各地に拡散。さらに確率統計の手法から金利、保険が生まれ、経済活動が活発になった。会計帳簿という標準化されたプロトコルはしばらく不変であったが、今後ブロックチェイン1で次なる進化への期待が膨らんでいる。

世界の誰でもどこからでも見られる台帳があれば従来の会計基準という束縛から解放される。決算に必要なルールも必要なくなるし、会計士も不要になる。つまり取引の中間に存在するものがなくなれば、究極の効率が得られる。

なぜweb3なのか

現在の中央集権型のインターネット環境の下では、個人情報の漏洩など様々なリスクが顕在化する。他方、今から説明するweb32は、次世代の分散型インターネットのことで、その特徴はパブリックでオープン、グローバルだが、詐欺行為というリスクは否定できない。また、オープンそのものをリスクと考える中国は閉じた環境(クローズ)を志向する傾向がある。

反面、自由で民主的な社会では透明性が重要な価値であり、日本の市町村レベルでは契約や取引を自動化するスマートコントラクトの普及も一部みられる。今後の普及が公共サービスに変革をもたらす可能性をもつ。

NFTとは

NFTとはNon-Fungible Tokenの略で、代替不可能なトークンという意味。例えば、既存の通貨や証券、暗号資産は誰でも流用できるので代替可能(Fungible)である。これに対して、絵画や芸術品などは他に置き換えできないので代替不可能(Non-Fungible)。この例のように、ブロックチェイン技術で偽造や改ざんを防ぎ代替不可能にしたデジタルデータに固有の価値をつけたものをNFTという。

例えば、”Bored Ape”というキャラクターは単なるスタンプだが、NFTとして保有すると、その所有証明が付き資産価値となる。キャラクターを生んだ側は1000億の利益を得て、その利益でメタバースを作り多くの経済活動を生んでいる。

DAOs

web3を利用した分散型自立組織のことをDAOという。コミュニティが主導する中央集権でない組織で、これまでの株式会社組織と異なるのは、顧客やユーザーにも半分近くトークンを返還できること。すると顧客のインセンティブも高くなり相乗効果を生みやすい。

ただし組織の課題は、財産所有や納税を含む物理的世界との取引を可能とする法的に認められる主体となる必要があることである。含み益に対する課税などで、日本の法改正には動きがあり、ようやく時代に追いつき始めたようだ。

課題と現状 会計

中国主導の経済秩序を目指しデジタル人民元が影響下にある開発途上国に広がりつつある。他方、米国は今回ロシアに対して金融制裁を発動したように基軸通貨の米ドルは米国の規制下にあるが、デジタル人民元は中国の監視下にあり、いずれにも与しない方策が求められる。

そこで日本の円だが、日本では中央銀行の円をデジタル化する動きがある上、価値の高い日本のコンテンツは強みであり、web3の世界で日本が主導権を握るチャンスがあると言える。

【略歴】
伊藤氏はベンチャーキャピタリスト、企業家、作家、学者として、主に社会とテクノロジーの変革に取り組む。民主主義とガバナンス、気候変動、学問と科学のシステムの再設計など様々な課題解決に向けて活動中。

現在は、千葉工大の変革センター所長、本年1月からは千葉工大評議員を務める。また、デジタルガレージの共同創業者取締役兼専務執行役員Chief Architectです。

2011年から2019年までは、米MITメディアラボ所長、非営利団体クリエイティブコモンズの最高経営責任者のほか、ニューヨークタイムズ、ソニー、ナイト財団、マッカーサー財団、ICANN、Mozilla財団の取締役を歴任した。

主な著書に、『テクノロジーが予測する未来 web3、メタバース、NFTで世界はこうなる』(2022年、SB新書)など多数ある。

(文責:国基研)


1電子分散型台帳とも呼ばれる。情報を記録するデータベース技術の一種で、ブロックと呼ばれる単位でデータを管理し、それを鎖(チェイン)のように連結してデータを利用する。データ改ざんが極めて困難という特徴がある。

2インターネットが普及し始めた1990年代をweb1とすると、その頃はWWW(World Wide Web)でシンプルな情報のやり取りをしていたに過ぎない。2000年代には、GoogleやFacebook、Amazonなどの巨大企業が双方向のプラットフォームを提供し、利用者の情報を管理した。これをweb2という。