国基研企画委員の田村秀男・産経新聞特別記者は12月16日、国家基本問題研究所企画委員会で、ロシアと中国の関係について経済情勢の視点から語り、その後櫻井理事長をはじめ他の企画委員らと意見交換した。
本年2月4日、北京冬季五輪開幕式でプーチン大統領に習近平国家主席は「友情に限界はなく協力する上で禁じられた分野はない」と語ったとされる。ロシアと中国は蜜月と言われる所以である。中露の関係がウクライナ問題とからみ国際社会にとり重要な要素と考える。そこで今回は経済関係に絞って解説する。
ロシア経済の実態
ウクライナ戦争が生起してから、ロシアのエネルギーと中国のカネが対ドル覇権に対抗するという構図があった。当初西側は、対ロ経済制裁を徹底した場合、ほどなくロシア経済は崩壊する予定であった。つまり、欧州のロシア産エネルギーの全面輸入禁止、国際金融システムSWIFTからの全面締め出し、ロンドン株式市場でロシア企業の締め出し等である。
しかし実際、ロシアのインフレ率は一時的に20%近くまで上昇したものの現在は欧米並みに落ち着いた。ルーブルの対ドル相場と短期金利も落ち着いてきている。
他方、中露間の貿易は中国の対ロ輸出入とも増加。対ドル相場でルーブルは3月の時点で大きく下がったが現在は高止まりである。
総じてロシア金融は持ちこたえている。その根拠は豊富な外貨準備高にある。ロシア中央銀行の発行資金の裏付けとなる外貨準備が常に高い状態にあり、したがって国内の金融政策も柔軟に対応できているのである。
ロシアの財政はエネルギー価格次第
この外貨準備のもとは、石油や天然ガスのエネルギー資源の輸出になる。今後、エネルギー価格が下がればロシア財政に影響を及ぼすだろう。天然資源の輸出税収が政府収入全体を凌ぐほど大きいからだ。
そこで国際メジャー資本が制裁のため撤退しロシアのエネルギー生産に技術的障害が生じ生産量に変化が生じたのか検討する。
天然ガスの場合、2月から下向きが続き上昇する気配はない。一見制裁が効いているようだが、夏から需要が増える冬に向けてどうなるかは、今後の推移を見る必要がある。他方、米国のLNG輸出もロシア同様に減少傾向であり、これはバイデン政権の消極姿勢のためという見方もある。
原油に関しては、3月以降ウラル原油の価格が下がり、安値で取引されている。西側の制裁で取引価格上限60ドルとされたが、価格がこの基準を割ることになるようであれば、ロシアの財政に相当な打撃になる。
中露蜜月とは言えない
ロシア中央銀行は対外準備資産における人民元の割合を増やしている。2018年と2022年の比較で、ドル比率が43%から10%に減少したのに対し、人民元は5%から17%に増加した。ただし、ユーロの割合が33%と高く、ロシアが人民元よりもユーロに依存している実態が見て取れる。
GDPのサイズでは、ロシアは中国の10分の1に過ぎない。中国は輸出で日米より高い世界的シェアを維持している。モノに関する存在感は中国がいまだに覇権を握っている。
経済を全体的に俯瞰するとモノは中国中心に展開し、ロシアはエネルギー価格で低迷する。他方、米国はドル覇権に固執しないバイデン政権の弱腰のため、中国に付け入る隙を与えている。
そのような中、わが国は、デフレを脱却して経済を復活すれば、国力を増大できるチャンスになる。しかし、ここにきて防衛増税では、デフレからの脱却は遠のき、このチャンスを潰すことになる。
(文責 国基研)