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2023.01.27 (金) 印刷する

「企業経営が直面する経済安保」 細川昌彦・明星大学教授

国基研企画委員の細川昌彦・明星大学教授は、1月27日、定例の企画委員会におけるゲストスピーカーとして、技術覇権のせめぎ合い起きている米中間の経済安保の論点を語り、櫻井よしこ理事長をはじめ企画委員らと意見交換した。

【概要】
米中間の技術覇権のせめぎ合い

現在、米中間では技術覇権のせめぎ合いが起きている。

米国は国家戦略として重要・新興技術(C&ET)の20分野について、国内基盤強化(Promote)と戦略競争相手からの保護(Protect)を推進している。例えば、先進コンピューティング、エンジニアリング素材、先進製造技術、航空エンジン、AI、バイオテクノロジー、データサイエンス・ストレージ、量子、半導体・マイクロエレクトロニクス、宇宙などである。

対する中国は、輸出禁止・制限技術リストを作成し新興・基盤的技術を管理・育成している。例えば、バイオ医薬品製造技術、3Dプリンター技術、無人機技術、人工知能相互インターフェイス技術(音声認識など)、暗号技術、工作機械の革新的設計、宇宙材料技術などである。

このような状況下、米国では供給網(サプライチェイン)の強靭化をはかるため、半導体、レアアース、高性能電池、医薬品などの分野で同盟国・友好国と連携する方針である。

日本企業が直面する経済安保の現実

そこでわが国は、経済安全保障の中核として、サプライチェイン、基幹インフラ、特許の非公開、先端技術の研究開発の4本柱を取り上げ、強化方針を打ち出した。しかし問題はこれで解決するものではない。それ以外の例えば、輸出管理、投資管理、大学などの研究管理、サイバー攻撃対策、産業スパイ対策など問題は山積する。

経済安全保障の核心は脅威を明確にすることである。先の中国共産党大会における「軍民融合」、「双循環」、「国家安全」がキーワードだ。第1の「軍民融合」だが、先進国は長い歴史の中で、軍と民を峻別してきた。だが中国は軍も民も峻別せず融合する、つまり西側との非対称を利用するのである。

第2の「双循環」とは、国内循環と国際循環のこと。重要戦略産業は悉く国内化する、特にコア技術は他国に依存しないことを基本とする。国際循環は、他国が中国に依存するように仕向け、経済を武器化するという意味。中国という巨大市場を餌に外国企業を縛るのである。

第3の「国家安全」というワード、これは中国版経済安保を意味し、すべての法解釈は国家の安全に帰着させるということである。つまり中国では例外なく国家安全というふるいにかけられることを覚悟しなければならない。

警戒すべき中国の誘致と排除

中国は国内循環の中で他国に依存しない国産化を目指す。自国の弱点つまりボトルネックである半導体の製造装置、材料、電子部品、液晶パネル材料、有機EL材料などを国産化し、サプライチェインの一気通貫を目指すのである。

国産化の手法はまず誘致した外国企業から吸収すること。この段階が誘致モードである。例えば、2022年11月に開かれた国際輸入博覧会で習近平が演説し、「対外開放」のメッセージとして宣伝。3年ぶりに改訂された外商投資奨励産業目録に掲載された企業の誘致を促す。その結果誘致された企業に中国との合弁企業を作らせて、中国側が51%以上の出資をして中国が操縦できるようにし、技術を獲得する。

技術の獲得が達成されたら次は排除モードに移行する。政府調達で国産品しか調達しない条件を付け、事実上外資企業を排除する。おいしい中国市場を餌に釣られて出ていくと痛い目を見る仕組みだ。例えばリチウムイオン電池、高性能磁石、次世代通信機、高速鉄道、風力発電などである。

その他の手段には買収もある。買収ファンドが基幹部品のショッピングリストに従い、中小の企業をターゲットにする。EUは2021年に11件の中国による買収案件を阻止しているが、日本ではそのような事例が見当たらない。

後手に回る日本の対応

さて、わが国外為法上の機微技術と国として不可欠な技術とが整合していない。ここが抜け穴となっていることを関係者は認識すべきである。外為法の指定業種では狭すぎるということだ。また、守るべき技術と出してもいい技術の仕分けを曖昧にしていることも問題である。このままでは、日本の備えはあまりにも不十分と言わざるを得ない。

政府はもとより企業側の努力も求められる。まずは大手企業が下請け中小企業を大事にして持続可能なサプライチェインを構築すること。中国に企業ごと引き抜かれてからでは手遅れになるのだから。

(文責・国基研)