公益財団法人 国家基本問題研究所
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2023.03.10 (金) 印刷する

国基研・第2回 日台米比 第1列島線防衛対話

国基研(JINF)は3月3日(金)、国際セミナーをオンライン形式で実施した。対話の概要が太田文雄企画委員(対話座長)から報告されたので、下記の通り紹介する。

左上:グレグソン退役海兵隊中将、右上:林博士、左下:オン退役海軍少将、右下:国基研

3月3日(金)1030-1200の間、日台対話の発展として令和3年6月以来の第一列島線防衛対話第2回がリモートで行われた。参加者は台湾国防協会副秘書長の林彦宏博士、フィリピンからは元海軍副司令官のロメル・オン退役海軍少将、米国からは元国防総省アジア・太平洋安全保障問題担当国防次官補のウォレス・グレグソン退役海兵隊中将で、国基研からの発表は企画委員で元陸幕長の岩田清文退役陸将、司会は太田企画委員が行った。

冒頭に櫻井理事長が、昨今の東アジアを巡る国際情勢から「今ほど第一列島線防衛を4カ国で対話するのに重要な時期はない」と開会の辞を述べた。続いて岩田企画委員が、日台比米連携の必要性と2国間連携強化の現状と今後の課題について発表した。これに対し、台湾の林博士からフィリピン空軍に輸出した警戒監視レーダーの作動開始時期と性能についての質問があった。

台湾の林博士からは台湾とフィリピンや米国との軍事的強力の重要性について発表があった。これに対し、岩田企画委員からは台湾とフィリピン間の公的な防衛・情報協力の有無について質問があった。

フィリピンのオン退役海軍少将からは、1月に首都マニラで行われた第10回米比戦略対話の概要が紹介された。米軍がフィリピン国内で使用できる基地が、これまでの5ヶ所から9ヶ所に増えたが、地元住民への配慮もあり場所は公開されていないもののルソン島北部とパラワン島の可能性が高いとのことであった。太田企画委員が、日本では沖縄県の屋那覇島を中国人女性が購入した事案がメディアで大きく取り上げられたが、フィリピンでも第一列島線防衛上戦略的に重要なバシー海峡のフガ(Fuga)島やスービック旧米海軍基地入口のグランデ(Grande)島等に中国資本が投資していることについて質問した。オン氏は、フィリピン憲法では外国人がフィリピンの土地を購入することを許可しておらず、また公的には外国からの投資を承認していなかったものの、軍等の反対にもかかわらず前大統領時代に新投資協定により中国が投資しているとのことであった。

米国のグレグソン退役海兵隊中将からは、まず日本の安保3文書に対し賞賛の言葉があり、米国の広い視野かつ歴史的背景から中国に対抗する必要性から第一列島線における多地域で沿岸防衛の必要性と将来像について説明があった。これに対し岩田企画委員からグレーゾーンにおける抑止力としての米戦力投入の可能性と、米陸軍が推進する複合ドメイン作戦についての質問があり、グレグソン退役海兵隊中将からは抑止力としての海空コントロールの大切さについて説明があった。

全体討議では、国基研の奈良林企画委員から、核抑止力向上のための日米協力の可能性と、原発に関してフィリピンは活用しているが台湾は蔡政権がゼロ原発政策を掲げていることについての質問が行われ、米国は捜索・攻撃のネットワーク構築の必要性を、また台比共にロシアのウクライナ侵攻を受けてエネルギー安全保障の懸念から原発の活用について国民は真剣に考えているとの回答があった。

太田企画委員からは、フィリピンに4か所拡張された米軍使用基地のうち、パラワン島も候補に上がっているとのことであったが、パラワン島には海上自衛隊の対戦哨戒機も定期的に展開していることから、南シナ海における米比日による多国間訓練の可能性についての質問がオン退役海軍少将になされた。

台湾の林博士からは、台湾有事における約15万の在台フィリピン人救出手段について質問があり、オン退役海軍少将が空輸・海輸について回答があった。

また太田企画委員からは、2月28日のアジア・タイムズの記事のようにQUAD(日米豪印の枠組み)にフィリピンも加わる可能性についてオン退役海軍少将に尋ねたところ、これまで米比、日比の二国間の2+2(外務・防衛大臣会合)はあったが、3国で一緒にやったらどうかと提案している。またフィリピンはオーストラリアとも、またインドとも良好な関係を保っており、インド海軍にはベトナムとフィリピンが南シナ海で海軍演習を行う際に参加したらどうか提案しているとの回答があった。

各発表者が締め括りの言葉を述べたが、米国のグレグソン退役海兵隊中将が、QUADに関してはフィリピンだけでなくベトナムも加えたらどうかという議論が進んでいるとの紹介があった。

最後に櫻井理事長が、年末に公表された安保3文書により日本は実質的に現憲法から脱却する政策の大転換を行なったとする閉会の辞で幕を閉じた。

(文責・太田研究員)