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2023.05.15 (月) 印刷する

「G20議長国インドの非同盟中立外交」 近藤正規・国際基督教大学上級准教授

近藤正規・国際基督教大学上級准教授は5月12日、国家基本問題研究所の企画委員会で、最近の情勢を概観しつつG20議長国としてしたたかな積極外交を展開するインドについて語り、櫻井よしこ理事長をはじめ企画委員らと幅広く意見を交換した。

近藤上級准教授の発言内容は概略次のとおり。

【概要】
インドは今年20カ国・地域首脳会合(G20)の議長国である。9月9日から10日に各国首脳が集う同会合は、インドにとって来年の今頃が下院総選挙になることから、世界のリーダーとして内外にアピールする絶好の機会になる。

すでに1月、インドは途上国を中心に「グローバルサウスの声」サミットを開催した。125か国がオンラインで参加したが、首脳会合セッションに首脳が参加したのは10か国のみで、主要な中国、ブラジル等は不参加。そのスローガンは「ひとつの地球、ひとつの家族、ひとつの未来」で、南側のリーダーの座を強調したい思惑が見えた。

●アピール外交の舞台G20
インドはG20に相当の熱を込めている。南の大国としての存在感を内外にアピールする絶好の機会ととらえている。実に国内の50以上の都市で200を超えるイベント開催を進めており、ニューデリーには巨大な国際会議場を建設している。

しかしインドの強い思いに反し、3月のG20外相会議では、共同声明も出せずに、想定外の結果に。日本の林外相が欠席したことにも大いに失望の念を抱いた。

2月と4月のG20財務相・中央銀行総裁会議は、途上国債務問題と金融不安がテーマだった。中国の債務の罠と原油価格の高騰に対し、間接的ではあるが中国、ロシア及び米国を同時に批判、ここでも共同声明は出せなかった。

●刺激を避けたい対中関係
上海協力機構(SCO)外相会議が5月にインドで行われた。中露のほかパキスタン外相が参加してテロ対策を協議できたことは一つの成果である。ただしSCOは米欧に対抗する枠組みであり、微妙なインドの立ち位置を示していると言える。

この関連イベントである国家安全保障局長レベル会議の際、中パが入国できず、オンライン参加になったことも、中印関係が改善に向かっていないことを示している。中印貿易も過去最大の赤字を計上し、中国の対印投資にも一部制限が残る状況だ。しかし総選挙の前に中国との国境問題で、新たな刺激を避けたい一面もあり、対中関係では微妙な匙加減が要求されるだろう。

●深化する対露関係
他方、ロシアとの関係は良好である。インドの原油輸入に占めるロシア産の比率は2022年には20%と前年の比率の10倍に増加した。欧米の制裁下にあるロシアに自動車、航空機、鉄道を輸出する計画もある。軍事面ではロシア製S400地対空ミサイルを購入するなどロシアとの親和性は相変わらず高い。

●良好な米印関係
6月には国賓としてモディ首相を米国が招待する。米国はクアッドの一角としてインドに期待を寄せ、インドはアイフォンや半導体の国内製造に期待する、いわゆる両想いに近い関係だろう。インドは軍事面でも米空軍と共同演習を実施するなど対中意識は高いといえる。

●インドが南を向く理由
インドは非同盟中立という米中ロいずれとも付き合う外交路線と、世界経済の成長の15%をインドが占めるという好調な経済を背景に、グローバルサウス各国に影響力を及ぼし、世界のリーダーとしてのインドの立場を築きたいと考える。

また途上国を取り込むことで外交を有利に進め、来年春の総選挙に向け足元を固めたい現政権の思惑もある。

●日印関係
軍事的には、各種の共同演習が盛んになってきた。経済的にも自動車だけでなく製鉄や半導体ビジネスの機会が広がりつつある。

日米印豪クアッドの重要性は変わらないが、日本が思うほどインドにとって価値があるのか疑問である。日本がインドに対し反露・反中を押し付けると、逆に煙たがられるのが落ちである。

安倍元首相に比べ岸田首相の訪印はインドから見ると期待外れであった。日印関係は表面的には良好だが、ボタンの掛け違いが起こることも想定しておくべきだ。

スリランカのコロンボ港における日印共同の港湾開発プロジェクトが中国に奪われて頓挫した経験を忘れず、日印が協力して一帯一路に対抗する途上国開発を進めることができれば、その意味は両者にとって大きいだろう。

日本は対中国という観点で、インドを利用する戦略眼を持つ必要があり、インドのロシア親和性に拘ると目的を失う恐れがある。

【略歴】
1961年生まれ。スタンフォード大学博士(開発経済学)。アジア開発銀行、世界銀行等にてインドを担当した後、1998年より国際基督教大学助教授、2007年より現職。インド経済研究所客員主任研究員、日印協会理事、ハーバード大学客員研究員。財務省「インド研究会」座長、日印合同研究会委員などを経験し、国基研では客員研究員を務める。専門は開発経済、インド経済。主な著書に『現代インドを知るための60章』(共著、明石書店、2007)など。 (文責・国基研)