南モンゴル人権情報センターのエンフバット・トゴチョグ代表ら米国在住の3名は、6月9日(金)、国家基本問題研究所企画委員会において、櫻井よしこ理事長をはじめ企画委員らと意見交換した。
代表らによる講話の概要は以下のとおり。
【概要】
● 南モンゴル(内モンゴル自治区)の背景
まず南モンゴルの人権状況を話す前に背景を解説する。第2次世界大戦後、内モンゴル自治政府として中華民国から事実上独立していたが、1949 年に中華人民共和国が建国されると、内モンゴル自治区として併呑された。他方、北に隣接する外モンゴルは独立の道を歩んだ。
その後、1966年に中国で始まった文化大革命により、内モンゴルは自治権を完全にはく奪され、モンゴルの人権を蹂躙する施策も開始される。文化大革命で約10万人が殺害されたことを含め、当時のモンゴル人の人口150万のうち約3分の一が弾圧され迫害を受けた。文化、言語、宗教をはじめ、様々な人権抑圧が行われた。これは、まさしくジェノサイドという言葉にふさわしい。
● 中国がボルジギン氏を連行
今年5月3日、南モンゴルの歴史家、作家で反体制派のラムジャブ・ボルジギン氏がモンゴルで逮捕された。彼はその著作『中国の文化大革命』により2019年に懲役2年を宣告され、刑期終了後、無期限の自宅軟禁となる。今年3月に中国を脱出し、モンゴルに滞在していたところ、中国の警察に捕えられ強制送還となった。モンゴル政府はその際、中国を批判しなかったのは、中国の強い圧力があったからである。
● チョローンドルジ氏の例
ムンヘバヤル・チョローンドルジ氏はモンゴル人ジャーナリストで、南モンゴルの人権を擁護する活動をしていた。2022年にウランバートルでモンゴル情報機関により逮捕され、懲役10年の判決を受け収監中である。インド大使館と共謀して中国へのスパイ行為をしたという罪状だ。このような人権擁護者に対するモンゴル政府の強行的対応は言論弾圧以外の何ものでもない。ちなみに、同氏は今年のノーベル平和賞にノミネートされている。
モンゴル政府が中国政府と協力している理由は、全体主義国の中露という両国に挟まれ、自国の国家体制を維持するためである。中国の影響力を受けるのは必然ともいえる。
● モンゴル母語の問題
南モンゴルでは9月からモンゴル語が教育現場で全面禁止になるという内部文書がリークされ衝撃が走った。2020年から中国(漢族)への同化のため「中華民族共通アイデンティ定着訓練」が全域で実施され、全ての小中学校ではバイリンガル教育(事実上中国語を強要する)が始まった。モンゴル人に対する文化的ジェノサイドと呼ぶべきだろう。
加えて、外国メディアを含め多くの報道機関は、中国政府の発表をそのまま報道するので、真実が世界に知られないということが、問題を見え難くしていることは否定できない。
G7サミットが今回日本の広島で行われた。その共同声明の51番目に人権問題が入った。しかし、そこにチベット、新疆ウイグル、香港の文字はあっても、南モンゴルが入らなかったのは残念だった。大国の日本には、さらなる協力を求めたい。
【代表略歴】
南モンゴル・バイリン地方出身。南モンゴル大学卒業後、1998年4月に岡山県の吉備国際大学で社会学を学ぶ。同10月に渡米し政治亡命。2007年にNY市立大学で理学修士(コンピュータサイエンス)。2001年に南モンゴル人権情報センターを設立、代表就任。楊海英著『墓標なき草原』英訳など多数の訳書がある。
(文責 国基研)
第386回 人権状況に関しG7広島サミットの共同声明に南モンゴルは入らず、日本からもっと声をあげるべき