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2023.06.30 (金) 印刷する

『「プリゴジンの乱」とロシアの内外政策』 名越健郎・拓殖大学特任教授

名越健郎・拓殖大学特任教授は、6月30日(金)、国基研企画委員会にて、ウクライナ侵略戦争の渦中にあるロシアの民間軍事会社ワグネルが本国ロシアに反旗を翻した事件について語り、他の企画委員らと意見交換をした。概略は以下のとおり。

【講話概要】
●ワグネル決起には多くの謎が
ロシアの民間軍事会社ワグネルが本国に反旗を翻した事件は、世界的関心を呼んだが、いまだに謎は多い。ロシアには現在30~40社の民間軍事会社があるが、ワグネルは最大規模と言われる。決起した理由はワグネル解体を恐れたとも言われ、もし部隊がモスクワに入ったら、国防省を包囲する計画であったされる。

このワグネル決起には多くの謎が残る。なぜ部隊は800キロもロシア国内で快進撃ができたのか。途中で軍のヘリを撃墜するなどの実力行使に対し、正規軍が大規模な阻止作戦をとらなかったのは、軍が歴史的に政治的中立をモットーとするだけでは説明がつかない。

また、ベラルーシのルカシェンコ大統領がプーチン・プリゴジンを仲介したというが、俄かには信じがたい。実体はバトルシェフ安保会議書記を中心に対応したとされる。つまり、プーチン氏の当事者能力に疑問符が付くことに変わりないが、ルカシェンコ氏のパフォーマンスという側面は否めない。

他方、多くの若者がワグネルの進軍を歓迎していた模様も報道された。理由は若者に戦争長期化への不満や英雄願望があったとされる。プリゴジン氏は当初からSNSを利用して若者層への浸透を図っていたことも影響したかもしれない。

プリゴジン氏の特徴はエリート批判をSNSで展開し影響力を拡大したこと。その他に、「ロシア軍は弱い」「ウクライナは主権国家」など、政権の主張を全否定する発言を拡散させたことにプーチン氏は気づくのが遅れた。若者を中心とした愛国勢力が政権に歯向かい始めたことは、第2第3のプリゴジン出現を予感させる。

●プーチン大統領の今後の出方
今回の件でエリート層に動揺が走ったので現体制を護持するため、引き締めを強化するだろう。たとえば軍の動揺を抑えるために部分的な粛軍の可能性も考えられる。ゲラシモフ参謀総長の処遇が気になるところである。

他方、ミシュスチン首相の支持率は増加している。9月の統一地方選、来年3月の大統領選に向け、焦点はエリート層をどう抑え込むか。ことと次第ではプーチン離れが起きるかもしれない。

●ウクライナ戦争への影響
ウクライナ戦争への影響は多くないのではないか。実際ウクライナが反転攻勢に出てからあまり進展していない。ウクライナは国土の20%をロシアに占領されている中で、これまで0.1%しか奪還できていない。

一方ロシアは塹壕戦、陣地戦を得意としている。いまロシアは塹壕にこもって防衛している状態なので攻撃側の被害が大きくなる構図である。今回の反乱で軍の中に動揺が起これば別だが、いまのところ影響は出ていない
 
●中国とロシアの関係
国際的に重要な外交日程が目白押しだが、プーチン氏はICCから逮捕状が出ているので、BRICS、G20、あるいは11月のAPECにも行けない。その間に米中首脳会談が開かれ、来年1月の台湾総統選に向けて米中が接近する可能性がある。今回の反乱で中国はロシアから1歩距離をおくのではないだろうか。展開は読みづらいが、プーチン時代の終わりの始まりが始まったのではないかと考える。

【略歴】
1953年、岡山県生まれ。東京外国語大学ロシア語科卒業後、時事通信入社。ワシントン支局長、モスクワ支局長、仙台支社長などを経て退社。2022年から現職。国際教養大学東アジア調査研究センター特任教授、時事総合研究所客員研究員を歴任した。

(文責国基研)
 
 

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第400回 「プリゴジンの乱」を解説

いくつもの謎がある。ベラルーシのルカシェンコの言うことは真実か。国家的危機を外国首脳に丸投げすることはあり得ない。一方プーチンの存在感が希薄。ロシア・エリート層や愛国勢力がプーチン離れに向かうかも。来年の大統領選を見据えたロシア内政に影響するかも。「プーチン時代の終わりの始まり」