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2024.07.22 (月) 印刷する

「経済安全保障~脅威と対応~」 細川昌彦・明星大学教授

国基研企画委員の細川昌彦・明星大学教授は、7月19日、定例の企画委員会において、経済安全保障の論点について発表し、櫻井よしこ理事長をはじめ企画委員らと意見交換した。機微な内容を含むため概要のみを下記に記す。

【概要】
●経済安全保障は国家安全保障の一環
・中級国家の戦略:パワーではなくチョークポイント技術を持つこと

・直面する脅威:経済の武器化(経済的威圧:例えばGa, Ge, Graphiteの3G供給停止)、戦略産業の自己完結化(軍民融合)、新興技術の技術覇権など

・政策的な対応:①サプライチェインの強靭化(対中依存脱却)②国産技術を守り(Protect)③育て(Promote)④国際連携(Partner)していくことが求められる。

●中国の大方針
中国の国家安全という大方針を具体化したものが「軍民融合」「自強自立」「双循環」である。

軍事力と民生の産業力を融合(軍民融合)して推進する、他国に依存することなく経済的自立を図る(自強自立)。双循環はその手段で、国内循環と国際循環のこと。

国内循環は、重要戦略産業を悉く国内化し、特にコア技術は他国に依存しないことを基本とする。国際循環は、他国が中国に依存するように仕向け、経済を武器化するという意味。中国という巨大市場と供給力に外国を依存させることが国際循環の正体である。

●中国の「技術入手・国産化・過剰生産」のプロセス
中国は前述した国内循環の中で、半導体など戦略産業について他国に依存しないサプライチェインの自己完結を目指している。

まず、自国の弱点つまりボトルネック技術(例えば半導体の製造装置、材料、電子部品、バイオ医薬品など)を国産化するため、外国企業を誘致(合弁、買収)する。この段階を誘致モードという。

その後、人材を含め技術を外国企業から吸収した中国企業を補助金支援する。この段階にあたるのが、IT機器、複合機、医療機器、汎用半導体などである。

技術の獲得が達成されたら排除モードに移行する。政府調達で国産品しか調達しない条件を付け、事実上外資企業を排除していく。結果として巨大な中国市場を押さえ、さらに過剰生産された製品が海外市場を席捲するというプロセスができる。この段階に至っているのが、車載用電池、高性能磁石、太陽光パネル、風力発電などである。

●官民一体で対応すべし
以上のような中国の戦略的なプロセスに対し、もはや現在の外為法の規制だけでは対応できない状況である。例えば、先端電子部品の積層セラミックコンデンサー(MLCC)は、ハイエンド品を除き、多くが輸出規制品目リストでの規制(リスト規制)の対象外であることから、企業が法令を遵守するだけでは技術流出を阻止することはできない。政府は技術管理の観点から外為法の規制を新たに強化しようとしているが、企業自身も経済安全保障の観点から常にアンテナを高くしてリスクマネジメントに心がける必要がある。

現状では、企業の虎の子の技術を人材ごと中国へ流出することが防がれていないのだが、企業側にとって技術流出は自社の恥になるため、他企業への情報提供に及び腰になるという側面は否定できない。

他方、韓国や台湾は最近、国内法を作り人材流出に歯止めをかけようとしている。他国が先行する中で、わが国も官民協業を促進し、現在直面している脅威・リスクに対応した仕組みづくりが求められる。

(文責・国基研)