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2025.06.24 (火) 印刷する

『消費税の重大欠陥:正しい貨幣観に基づく財政・金融政策へ』 桜内文城・元衆議院議員

桜内文城・元衆議院議員は6月20日、国家基本問題研究所の企画委員会で、「消費税の重大欠陥」と題し、消費税の日本経済に対する悪影響などについて、櫻井よしこ理事長をはじめ企画委員らと幅広く意見交換をした。

桜内氏の発言内容は概略次のとおり。

【概要】
〇見過ごせない雇用への悪影響

国際的に付加価値税をかける国は多い。付加価値税の計算方法は、課税売上高に10%をかけ、そこから仕入額に10%をかけたものを引いたものが、納付税額になる。しかし同じ付加価値税でも日本の消費税と欧州型付加価値税とは異なることに留意する必要がある。

欧州型付加価値税は前段階税額控除方式とも呼ばれ、その課税対象の仕入額はインボイス方式であり、インボイス(請求書や納品書など)を発行できない非正規社員の労賃は正社員と同様に控除の対象にはならない。それに対し、日本の消費税は仕入税額控除方式とも呼ばれ、非正規社員(工場労働者、派遣労働者等)の労賃を業務委託費や外注費として計上すれば、仕入税額控除の対象となり、消費税の納付税額を減少させることができる仕組みである。

したがって、日本の場合、正規社員か非正規社員かによって経営者の判断で消費税の納付税額が変わってくるのであり、非正規社員が増大した原因ともなった。

他方、法人税と消費税と比較すると、法人税の場合、企業努力で利益が多く出そうな場合、従業員へのボーナスを弾めば税額を抑制することができる。しかし、消費税の場合、ボーナス額に10%分の消費税負担が増加する。つまり、消費税は賃金抑制効果を生むということであり、雇用に対する影響は少なくない。

〇消費税は社会保障財源ではない
巷間、消費税を減税すると社会保障費の安定財源に影響があるなどの説を聞くが、実際のところ消費税は、所得税や法人税と同様に、一般財源(一般会計歳入)であり、全額が社会保障の財源となっているわけではない。それどころか、1989年の消費税導入以降、消費税率が引上げられる都度、法人税の基本税率が引下げられてきた。結果として、消費税収は、法人税減税の代替財源に充てられてきた他、消費税の収納税額30兆円の約1/4に相当する8兆円程度が輸出企業への輸出還付金、すなわち実質的な輸出補助金として支出されているのが現状である。

それでは、令和6年度予算の社会保障給付費137.8兆円は何で賄われているかというと、約6割は社会保険料から、残りの4割は公費で、そのうち国の一般会計からの社会保障関係費は全体の27.9%、37.7兆円であり、そこには消費税収だけでなく、所得税や法人税等の一般財源が充てられているので、消費税が社会保障給付費全体に影響を与えるほどの安定財源といえるかは疑問である。

〇正しい貨幣観に基づく財政・金融政策へ
国が赤字国債を発行すると財政は破綻するという説も聞くが、正しい貨幣観をもてば破綻しないことが容易にわかる。その貨幣観とは信用貨幣説に基づく考え方である。

信用貨幣説によれば貨幣(マネー)とは、銀行システム(中央銀行+民間銀行)の外部に対する負債の記録(単なる情報)である。そこで流通する通貨の総量をマネーストックといい、マネーストックが増減するメカニズム(信用創造)は、経済活動の動向を示す指標ともなっている。

社会会計で財政政策を見ると、財政赤字はマネーストックを直接増加させる。これを財政赤字による信用創造と呼ぶ。財政均衡の場合、マネーストックは不変だが、借入(建設公債)による公共投資が少なければ、一国経済全体の資本蓄積は滞り、経済成長率を低下させる。加えて、税収により国債償還をするならば、マネーストックが直接減少し、デフレ化する可能性がある。つまり、信用貨幣説に基づく財政政策では、財政赤字による信用創造を通じて、適切なマネーストックの水準をコントロールすることが重要である。

金融政策でも、政策金利の操作は資産価格(株、土地、為替など)に直接的影響を及ぼすが、総需要やGDPといった実物経済には間接的影響を与えるに過ぎない。アベノミクスでの異次元緩和(量的緩和)についても、日銀による国債の大量購入は、日銀の負債(マネタリーベース)を5倍にまで増大させたが、マネーストックにはほとんど影響を与えなかったことから、デフレ脱却に向けた経済効果は薄かったと言わざるを得ない。

以上から、政府には、現実の経済システムを捉える信用貨幣説に基づく財政・金融政策を実施することを提言したい。

〇質疑応答の例
Q:消費税減税に否定的な政府の説明では、給付金に比べ消費税を減税する手続きには時間がかかるという理由を持ち出すが、それは正しいのか。
A:政府の説明は、給付金の方が実は手間がかかるという実態を反映していない。地方公共団体では臨時職員を雇用する余計なお金もかかる。他方、消費税率を引き下げるための小売店のレジ改修は、すでに増税時に実施済みなので、手間がかかるというのは単なる言い訳でしかない。

Q:国債を返還する手段は税収以外にあるか。
A:国債は借換債を発行すればよく、マネーを減らさないことが大事なことである。国債を税金で償還すると、マネーストックが直接減るので経済全体が小さくなってしまう。借換債だけでなく、新発債としては建設公債(財政法4条公債)を発行することが重要である。そうすれば、最近の20年間にほとんど伸びなかった純投資額が伸び、経済が活性化するだろう。

Q:消費税減税の財源としては法人税を上げるということか。
A:法人税をしっかり取っていれば、企業の内部留保が今のように大きく蓄積することはなかった。この蓄積の相当部分が外貨建ての投資(外貨建て金融資産)となっており、日本の労働者に還元されていないことが問題である。よって国内での投資税額控除をするなど、円建ての純投資額が伸びる政策を行うべきである。

【略歴】
1965年、愛媛県出身。1988年東京大法学部卒、大蔵省入省。1992年ハーバード大学ケネディ・スクール修士課程修了(MPP)、1999年マラヤ大学政治経済学系大学院博士課程修了(PhD)。2002年新潟大学経済学部助教授に就任、2010年第22回参議院選挙で初当選(みんなの党)、2012年に日本維新の会の結党に参加、政調会長に就任、第46回衆議院選挙で比例当選。2014年に次世代の党の結党に参加、政調会長に就任、同年12月まで国政に参与。現在は公認会計士・税理士。
主な著書は『日本の法制度2.0~戦略的立法への転換~』(内外出版、2019年)、『公会計-国家の意思決定とガバナンス』(NTT出版、2004年)、『公会計革命』(講談社、2004年)(文責・国基研)