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2011.08.29 (月) 印刷する

銀行の為替デリバティブ取引は問題だ 弁護士 稲田龍示

 円高が中小企業に想像を超えるダメージを与えている。為替デリバティブ取引が大きな原因だ。今年の円高倒産件数の過半数もこれに起因する。ここでいう為替デリバティブ取引とは、5年、10年という長期間、毎月または3か月ごとなど定期的に外貨(主に米ドル)を購入する外国為替予約取引である。
 通貨オプション、クーポンスワップ、為替予約と名称や形式は幾つかあるが、実質は同じで、問題のある特約が付いているものも多い。リーマン・ショックのあった平成20年までに開始された為替デリバティブ取引で、中小企業はその後の円高により約2万社で数兆円とみられる莫大な含み損を抱えている。
 金融担当相は金融ADR(裁判外紛争解決手続き)による解決が適切だという認識を示したが、取引実態を把握しないままでは臭い物に蓋をするに等しい。
 為替の変動は誰にも読めないから、長期間継続的にドルを買うような契約をするのは賭博になる。(例外は長期の外貨建て債務が確定しているような限られた場合である。)為替デリバティブ取引による損失は賭けが裏目に出ただけなのだ。
 銀行は中小企業に対し、為替リスクのヘッジになるからと為替デリバティブ取引を勧めたが、2~3年先までの中期経営計画すらない中小企業に、5年も10年もヘッジが必要な具体的な為替リスクはそもそも存在しない。銀行の指摘した為替リスクは、賭博に引き込むための仮想にすぎなかったのだ。しかも、銀行は中小企業が気づかないところで、大きな利ザヤを得ていたから、銀行と中小企業のこの勝負は、中小企業にとって最初から勝ち目が薄かった。   
 銀行法など法律上の表面的な根拠があったとしても、経済的な合理性や必然性の乏しい、投機性の高い金融デリバティブ取引は賭博罪に該当し得るとするのが金融法の世界では確立した考え方だ。銀行による中小企業に対する為替デリバティブ取引の勧誘は、未成年者に売ってはいけない商品を、未成年者を選んで売りつけていたようなものだ。
 金融庁は、賭博罪に該当するような取引が、デリバティブ取引として行われていないかという視点での金融検査を行うべきだ。個別取引のサンプル検査を行い、問題のある取引をした銀行については厳正に行政処分を行い、場合によっては刑事告発までするというのでなければ、やり得を許すことになり、事後的規制で正義を貫徹することはできない。