公益財団法人 国家基本問題研究所
https://jinf.jp/

最近の活動

  • HOME
  • ニュース
  • 「多国間のシーレーン防衛協力―インド洋と南シナ海」 川村純彦 客員研究員
2011.11.25 (金) 印刷する

「多国間のシーレーン防衛協力―インド洋と南シナ海」 川村純彦 客員研究員

川村純彦研究所の川村純彦代表は11月25日、国家基本問題研究所(JINF)で「多国間のシーレーン防衛協力―インド洋と南シナ海」について語り、JINF企画委員と意見交換した。川村所長の主な発言要旨は次の通り。なお、同所長は元海将補で、JINFの客員研究員でもある。

南シナ海内海化の狙い

南シナ海における中国の目的は資源の確保と同時に、内海化によって達成される軍事目的、即ち、敵の接近拒否及び核の報復力(第二撃能力)を確保することである。特に米国による核の先制攻撃から生き残って確実に報復できるのは、戦略ミサイル潜水艦(SSBN)に搭載した戦略核ミサイル(SLBM)以外にない。

中国は最近、南シナ海の海南島に大規模な海軍基地を建設し、射程8千キロの巨浪2型(JL-2)弾道ミサイル12基を搭載する「晋」級SSBN2隻を配備しており、更に2隻を建造中である。中国の周辺海域では黄海や東シナ海は水深が浅すぎてSSBNの戦略展開には適さない。それに適しているのは、水深3-4千メートルの深海域が存在する南シナ海以外に見当たらない。

それ故に、南シナ海での米中対立の本質は米国と覇権を争うために確実な対米核報復力の獲得を狙う中国の挑戦とみるべきだろう。中国の戴秉國国務委員が南シナ海を「核心的利益」と呼んだとされる報道はまさに中国の本音である。

シーレーン防衛には参加国の共通認識が必要

南シナ海問題は交渉か牽制かという二者択一の問題ではないが、力の裏付けのない牽制は効果がなく、問題の解決を期待できない。今は交渉よりも牽制を基軸とした対応に移るべき時にきている。牽制をより有効にするには米国に依存するだけはなく、安全保障上の利害を共有する諸国間のシーレーン防衛に対する緊密な協力が不可欠である。そして参加国には三つの共有認識が必要であろう。

  1. 「航行の自由」は中国から与えられたり留保されたりするような原則ではない。
  2. 大国なら国際法を恣意的に修正、或いは無効にできるという前例を、中国につくらせてはならない。
  3. 米国の核の傘の信頼性を維持するために中国による南シナ海の内海化を許してはならない。

 
協力体制の枠組み

防衛協力の枠組みの中核になるのは、優れた海軍力や相互運用性、同盟の歴史などの諸要因から判断して日米同盟が最適である。日米両国でEEZ(排他的経済水域)内での活動についてまず認識を整合させ、そのうえで共同で事前研究、作戦計画を作成、綿密な事前訓練を行ったうえで、日米共同で南シナ海の哨戒を開始すべきである。当初は航空機による哨戒が主体だろう。まずは中国の内海化が既成事実化しつつある南シナ海から開始、次にインド洋に広げていくべきだ。

日米同盟で行動を起こし、それを軸に有志国が加わる有志連合方式を採用すべきだろう。対象はASEAN諸国だけでなくインド、オーストラリア、韓国が考えられる。ASEANの沿岸諸国にたいして海事能力強化のための教育・技術支援、資材提供、財政支援等の支援を行う。一方、沿岸諸国には有志連合に対する後方支援基地機能の提供が望まれる。

インド、オーストラリアにも南シナ海やインド洋の航行の自由を守ることへの関心は強まっており、米印或いは日米印3カ国の枠組み、また、オーストラリアでは米国、或いは米豪印との3カ国枠組みやインドネシアなどASEAN諸国との防衛などの協力関係強化への動きが見られるようになった。

中国の孤立化ではない

中国からは「対中包囲網である」との強い反発が予想されるが、中国を包囲し孤立させることが目的ではない、と強調すべきである。これは海上交通の国際的な規範やルールを合理性のない「歴史的根拠」や国際法の恣意的な解釈によって捻じ曲げようとする試みに断固として反対する国際社会の基本的な考えに基づく行動であり、この点を中国に対し明確に伝える必要がある。

このシーレーン防衛構想は単にシーレーンの防衛だけでなく、日米同盟の強化という課題に対し日本が初めて積極的な貢献が出来る可能性を示したものであり、実現可能、かつ有効な方策である。

(文責 国基研)

発言要旨PDFはこちらから