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2011.12.13 (火) 印刷する

「日印とアジアの安全保障」 ブラフマ・チェラニー インド政策研究センター教授

インドの民間シンクタンク、政策研究センターのブラフマ・チェラニー教授は12月6日、国家基本問題研究所の櫻井よしこ理事長をはじめ企画委員と「日印とアジアの安全保障」について意見交換した。チェラニー教授は日本国際交流基金と国際文化会館主催のシンポジウムに招かれ、訪日した。同教授はインド政府の国家安全保障会議の顧問や外相の政策諮問グループの一員を務めるなどインドの戦略研究の第一人者である。

意見交換の焦点は、増大する中国の脅威への対処だが、同教授はインドにおいては今年だけで330件余の対中国境紛争があったと説明。このため、多数の兵員を国境地帯に張り付け、多額の国防予算を支出する結果となった。インドを消耗させるのも、中国の手といえる、と教授は指摘している。

また、かつて中国の周恩来首相(1898-1976)と共に非同盟主義を推進したジャワハルラール・ネルー首相(1989-1964、初代インド首相)は中国に対する油断から1962年、北東部国境(アンナチャルプラデシュ州)への中国軍侵攻を許し、今も占領されたままになっているなどの失政をおかしたこともあって国内の評価は低い、と述べた。日本にある比較的高いイメージとは対照的である。

チェラニー教授の主要な発言は次の通り。

ミャンマー

“ミャンマーの春”をもたらしたきっかけの一つとなったのは、テイン・セイン大統領が今年9月末、同国北部カチン州のイラワジ川上流で、中国と共同建設中のミッソンダム工事中止を発表したことだ。工事のため26万人が立ち退きを迫られたうえ、自然環境への悪影響が明るみにでたため、地元の少数民族が抗議活動、さらに反政府活動を活発化させていた。

そのほか6つのダム計画は継続されているが、発電量の90%を中国に送電する計画だっただけに中国にとっての痛手は大きい。ミッソンはいまや中国の“強欲”の象徴としてみられている。

孫子の兵法

敵の弱い部分を攻めるのが常套だが、中国は韓国との貿易戦争で孫子の兵法を発揮している。2000年に韓国はWTO(世界貿易機構)ルールに基づき、中国のニンニク輸入に6ヶ月間にわたって高関税をかけたところ、中国は対抗措置として韓国の携帯電話を6週間にわたり輸入制限した。その損失は1600万ドルとはるかに大きく、韓国は降参せざるを得なくなった。

ダイヤモンドの首飾り

中国が進める“真珠の首飾り”と言われる対インド包囲網に対抗して、インドが進めるのが真珠を上回る“ダイヤモンドの首飾り”戦略だ。それはインドから始まって、東南アジアの“嫌中”3カ国のミャンマー、ベトナム、フィリピンと連携、さらに日本、ロシア、モンゴル、カザフスタンを繋ぐ戦略である。ミャンマーは欧米、日本などから制裁措置を受け、やむを得ず中国に走ったが、本来は中国に対する警戒心が強い。

また、米国と同盟関係にある韓国がインドの戦略包囲網に入っていないのは、歴史的に韓国が中国と事を構えることができない国であり、対中関係になると頼りにならない、との認識があるからである。

インドは東アジアに学べという「ルックイースト」政策を推進してきたが、今や「アクトイースト」を実行中で、発展を遂げている。

(文責・国基研)