大島賢三・元国連大使は2月17日、国家基本問題研究所で、「国際機関における中国と日印協力」について語り、同研究所企画委員と意見交換した。大島元大使の主な発言要旨は次の通り。
日印協力の素地
日本とインドは、民主主義原則を共有し、相互利益の見地から経済協力、貿易、政治外交などいろいろな場面で協力が深まっており、今後さらに深化が期待できる素地がある。インドと中国の関係は、貿易など相互に共通利益がある部分は発展しているが、インドは安全保障の面では中国のインド洋や南アジアへの影響力伸長に懸念を深めているようだ。中東との中継点たるインド洋地域に日本は重要利害を持つので、同じような利害を持つインドはもちろん、アメリカ、オーストラリアなどとも連携して、適切な協力関係の強化に努める必要があると思う。国連など国際会議の場では、インドは発展途上国のリーダーとして振舞おうとするので、問題によっては日印の協力連携に制約が伴うことはあるが、他方でアジアの有力指導国として立場を共有するという側面もある。例えば、国連では先の国連安全保障理事会改革では共同行動を取った。
ODA、日本への積極支持に結びつかず
この安保理改革だが、2005年、日本はインド、ドイツ、ブラジルと共に「G4」と呼ばれるグループを形成して4カ国同時の安保理常任理事国入りを目指したが、決議採択に必要な三分の二多数確保への見通しが立たず、決定に持ち込むには至らなかった。多額の政府開発援助(ODA)を続けたにも関わらず、アジア諸国から積極的な支持を取り付けられなかったのは、日本外交の失敗ではないか、との意見もあるようだが、この間の経緯と内情は複雑であり、単にODA供与と結びつけて「失敗」と決めつけるのは短絡的に過ぎる。すなわち安保理改革とは、国際政治の根幹に関わり国連憲章改正を要する重要かつ機微な問題であるという根源的な困難性のほかに、中国の猛烈な巻き返しや「G4」に反対する一部有力地域国の反対もあって頓挫した。また、ODAの見返りに一票を期待するのは、国際場裏で「票をカネで買う」外交をやれという論に結びつきかねない。ODA評価については国内でいろいろな見方があるが、一般的に日本や日本人に対する国際的な評価に好影響を与え、日本の地位を高めてきていることは間違いない。この点は自信と誇りを持つべきだとはっきり言いたい。2005年の「G4」による努力は日の目を見なかったが、もし新しい常任理理事国を選挙で選ぶことになった場合、第一に支持したい国は日本であるというのが国連内の大多数の意見であった。ただ、国連に対する日本の拠出金はアメリカについでまだ第二位を保っているが、その比率は、ここ数年の間に、全体の20%弱から、16%、13%へと急激に減ってきている事実がある。日本の財政事情が厳しい中で、国連などの財政負担が減ることは結構なことだが、他方でそれは日本の国際的地位や影響力の低下であり地盤沈下であるということであれば、歓迎ばかりもしておれず、複雑な心境になる。
ボランティア拠出金制度
国連、特に安保理が大国の拒否権で機能不全に陥っている中で、定率の拠出金を止め、国益にかなった国連事業にだけカネを出す、ボランティア拠出金制度を提唱するジョン・ボルトン元米国連大使の考え方は、彼独特のユニークな考え方だと思う。最近シリアに対する制裁決議がロシアと中国の反対で葬り去られ、安保理の機能不全が批判されているが、これは新しいことではない。常任理事国に拒否権が認められている以上、国連の歴史を通じ、理事国自身の利害関係でこういう結果は起きてくる。そこで拒否権の制約をすべしとの議論もあるが、実現の見込みはまずないであろう。だとすると、安保理を迂回して世界の問題、特に重要な人権や人道、人間の安全保障といった問題について、国連がもっとしっかり役割を果たせるような何らかの仕組みを模索することは必要であろう。
中国型発展モデルについて
中国は、そのグローバル戦略の中で、中国型発展モデルを標榜しその対外的伸長をはかる一方で、一党独裁の継続を至上目的とし、欧米との関係では対抗と協調を都合により使い分けする外交をしている。これは新しい帝国主義的モデルではないかとの見方もあるようであるが、私見では、中国指導部はやはり共産党支配を永続させたい、しかし共産党政権そのものを世界に広めるとことはもはや現実的目標ではないので、自らの価値や体制維持に都合の良いような独裁政権が開発途上地域に多くあればそれだけ孤立しないで済む、と考えて行動しているのであろう。アジアやラテンアメリカでは旧来型の独裁政権が少なくなってきており、中東でも「アラブの春」で地殻変動的変化が訪れている。アフリカでは一部で民主化が進んでいるが、まだまだ独裁政権は多い。アフリカ等の独裁政権は、欧米から冷たくされても、中国がその間隙を縫ってサポートしてくれるので、生き延びていける。ここに一種の共通利益がある。中国があれだけアフリカに力を入れているのは、資源獲得だけではなく、自らの生存圏を維持せんとするグローバル戦略に沿ったものであろう。途上国グループのリーダーとして常に国連での多数票を抑えておくという外交上の戦略もそうだ。そういう意味では、実にしたたかな外交をしていると思う。
そうは言っても、アラブの春で中東の独裁政権が崩れ始め、アジアでもミャンマーが軍事独裁政権から民主化への傾斜の動きを見せ、アフリカでは少数とはいえ中国型モデル(多数の中国人労働者と資材のもちこみによるインフラ事業、技術移転の少なさ、安価だが品質上の問題など)に対する批判も出始めている。多分北京の観点からみると、中長期的には世界の開発途上地域全体は中国にとり好ましくない方向へと事態が進みつつあると、内々では懸念を深めつつ見ているのではないか。