●破綻した「先制降伏」と「逃げの反論」
エド・ロイス米下院外交委員長(共和党)が、2014年1月31日、カリフォルニア州グレンデールの慰安婦像の前にぬかづき、日本は「事実」を認めよと求め、併せて「靖国神社に安倍首相が行ったのは不適切だった」と述べたという。本人の軽率を咎めて済む問題ではない。ロイス氏は、米議会内でも北朝鮮に最も厳しい態度を取ってきた議員であり、拉致問題にも理解が深かった。中国政府による脱北者強制送還を強く批判してきた事でも知られる。
そのロイス氏の外交委員長就任は、中朝に対する日米韓自由主義陣営のスクラムを強化する上で慶賀すべき事態だった……はずである。ところが韓国側の運動により、ロイス委員長は逆に日米韓関係にすきま風を吹かせる役割を演じさせられている。これを「成果」と喜ぶ韓国人たちの愚かさは喩えようもないが(中朝の自覚的スパイは別にして)、同時に、「先制降伏」と「逃げの反論」を二本柱としてきた日本外交の破綻を象徴する事態でもある。安倍政権は可及的速やかに河野談話を改めるべきだ。慰安婦強制連行はなかったと書き込むだけの修正をいつまでためらうのか。
●韓国の反日にどう対するか
そして韓国側(その背後には中共が見え隠れする)が誹謗中傷の度合いを強める以上、「恥ずべき嘘はやめよ」と国際場裡での逆批判まで踏み込むべきだ。
日本が韓国国民に全面的に謝罪すべきは、戦後、朝鮮総連の活動を野放しにし、日本を事実上北の対韓工作基地とした一点のみである。戦前の併合については、果たして韓国政治の自律に任せて東北アジアの安定が得られたのか、検証を要する点が多々ある。
日本政府はまた、対北資金提供事業である「開城工団」を直ちに中止するよう朴槿恵政権に求めるべきである。国連安保理制裁決議違反である上、拉致問題解決を阻害する行為ともなっている。
さらに、安倍首相の靖国神社参拝を執拗に非難しながら、習近平中華人民共和国主席の毛主席紀念堂「参拝」は黙認する矛盾も公に取り上げるべきだろう。目前に迫った半島自由統一を軍事介入でつぶした毛沢東こそ、そして一度も反省や謝罪を口にしたことのないその後継者たちこそ、韓国保守政権にとって最大の批判対象ではないのか。
●中国共産党政権の反日にどう対するか
なお、韓国の総じて非理性的な反日に対し、中国共産党政権が展開する反日宣伝は明確な戦略性を有している。日本政府も反論を始めたが課題も多い。以下、「評価点と課題が混在する中国への反論」(今週の直言2014年2月3日号)から一部再掲しておく。佐々江賢一郎駐米大使(1月16日ワシントン・ポスト)、林景一駐英大使(1月22日デーリー・テレグラフ)、梅本和義国連次席大使(1月29日安保理討論)の議論を比較検討したものである。
……佐々江大使は、平和的秩序を乱しているのは「周辺諸国に対する中国の軍事的、商業的強圧だ」と明確に指摘し、林大使も「力と強圧によって現状を変更しようとする中国の試み」に警鐘を鳴らした。この辺りの論は説得力がある。だが、佐々江大使が「中国と違い日本は第2次大戦以来、一度も戦闘で発砲していない」と付け加えたのは勇み足ではないか。それはテロ政権に同胞を拉致され、救出できない弱さにもつながっている。
一方、佐々江大使が「中国は開かれた議論や情報の流れを許さず、従って中国国民は世界中の人々が知る真実に接し得ず、政府が広める歪んだ見方を批判することもできない」と人権問題に踏み込んだのは評価できる。林大使も「日本では政府を批判しても逮捕されない」と軽いジャブを放った。
これに対して梅本大使は「アベ」と呼び捨てにする中国大使の激しい反日演説に晒されつつ、中国の強圧的対外行動にも人権抑圧にも言及せず、国連安保理という注目度の高い舞台に立ちながら覇気のなさが顕著だ。
3大使とも「過去」や「戦争」への謝罪と反省の念を改めて表明している。しかし、何をどこまで日本の責任と捉えているのか明確でない。また、相手の責任も問うべきは問うという姿勢が希薄だ。例えば近年、中国政府が黙認する形で起きた日本企業への焼き討ち事件などをなぜこの機会に厳しく追及しないのか。この問題に焦点を当てることで、過去の日本軍の行動も「侵略」と一括りにはできず、在留邦人の命と財産をテロから守るといった側面もあった事実が浮かび上がろう。すなわち歴史認識の精緻化にも通ずる重要論点である。
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