公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2014.02.13 (木) 印刷する

「正しいこと」と「勝つこと」は違う 富坂聰(ジャーナリスト)

 島田教授が提起した日本の宣伝力不足は、重要かつ不可避の課題だ。概ね教授の指摘に共感を覚えるのだが、それでも若干の反論を試みたい。
 第一は「正しいこと」と「勝つこと」の混同である。「正しい主張をすれば世界は理解してくれる」という誤解と言い換えても良い。歴史認識をベースに日本から中韓へ向けて発信される反論でしばしばみられる現象だが、多くの反論は日本人が共感することが前提となっていて、拍手も内側から起こり、日本人同士がハイタッチし合う構造に陥っている。これでは二国間の論争では一定の効果を得られるものの世界が舞台ではほとんど意味はなさない。
 エド・ロイス米下院外交委員長のケースも同じだ。ロイス氏が重視するのは世界の多くの政治家と同じく、どちらの主張が正しいかではなく、選挙区の有権者がどう判断するか、であろう。
 そう考えたとき読み手に一定の歴史知識を求め、なおかつ労力を強いる日本の発信が一般のアメリカ人に効果的か否かは自明だ。
 このほか日本の宣伝戦には戦術の乏しさ、価値観の不統一、目標達成実現性の欠如等さまざまな問題がみとめられるが、限られた文字数での反論なので最後に一つ指摘しておけば、日本には戦場を選ぶという選択肢がなく、すべての戦線で勝とうしている点が挙げられる。放っておけば風化したかもしれない問題を刺激して拡大再生産する問題だ。それだけに中韓はいつまでも自分の得意な戦線で戦いを続けられるのだ。