2014年10月27日に平壌入りし、28,29日の二日間、北朝鮮の「特別調査委員会」(委員長・徐大河国家安全保衛部副部長)と協議を行って30日に帰国した日本政府代表団は、事前の予想通り、いや予想以上に、人権問題に丁寧に取り組んでいるという北の国際宣伝戦に利用されるだけに終わった。
「北朝鮮の思惑に振り回されないようにしないといけないが、そういう傾向が出ている」(飯塚繁雄家族会代表)という懸念は、北に取り込まれた一部の「専門家」を除き、多くの関係者に共通するものだろう。
安倍首相は、「拉致問題解決に向けた日本の強い決意を北朝鮮の最高指導部に伝えられた」ことを訪朝団派遣の成果としているが、北の最高指導部が得た感触はむしろ、「安倍も甘い。チョロいな」というものではなかったか。
実際の安倍首相は、決して甘くはないが、現在のように外務省幹部に対北政策の主導権を委ねている限り、そうした印象は強まらざるを得ないだろう。そして、トップが「甘い」と見られれば、「拉致被害者を亡きものにして日本に遺骨を渡し一件落着に」といった誘惑に北の指導部が駆られる可能性も高まる。
拉致解決に向けた安倍首相の強い思いは疑いようがない。それだけに、巧みに気を持たせつつ、小刻みに利益を得ようとする相手の策略に足を掬われない注意が必要だ。
われわれ国民の側も、軍事的な手段を憲法上封じられている日本の首相に、「早く解決を」と言っても限界があることを認識しておかねばならない(自衛権の発動として救出部隊を送れないはずはないが、予見しうる将来、政治的に不可能だろう)。
安倍首相は、圧力重視の正道を行くべきだろう。拉致問題解決の時がいつ来るかは、日本の意思とは無関係の国際的変動も含め、諸状況に拠る。北朝鮮体制打倒を視野に、「行動対行動」の原則を堅持する限り、多くの国民は、短期的な成果に関わりなく、その政権を支持するはずである。