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2014.11.07 (金) 印刷する

国連北朝鮮人権決議に中心的役割を果たせ 島田洋一(福井県立大学教授)

 2014 年2月7日付で国連人権理事会に提出され、外務省のホームページにも全文(英語および日本語)が掲載されている「朝鮮民主主義人民共和国における人権に関する国連調査委員会の報告」には、北朝鮮の国家安全保衛部に触れた箇所が4つある。

まず列挙しておこう。

第24項の記述。「調査委員会は、北朝鮮による組織的、広範かつ重大な人権侵害がこれまで行われてきており、また、現在も行われていることを明らかにした。判明した侵害は多くの場合、国策に基づいた人道に対する罪を伴っていた。主な加害者は国家安全保衛部、人民保安部、朝鮮人民軍、検察所、司法及び朝鮮労働党の官僚で、朝鮮労働党の中央組織、国防委員会及び北朝鮮最高指導者の実質的な管理下で行動している」。

続いて第57項の記述。「拘束、処刑及び失踪に関わる北朝鮮における深刻な人権侵害の特徴は、大規模な治安組織のさまざまな部門を高度に中央集権化して調整することで実行されている点である。国家安全保衛部、人民保安部、及び朝鮮人民軍保衛司令部が、恒常的に人々を政治犯罪に問い、恣意的に逮捕し、その後外部との接触を断った状態で長期間拘束する。家族には安否も所在も知らされない。このため政治犯罪に問われた者は強制失踪の被害者となる。容疑者を失踪させることがこのシステムの計画的な特徴であり、国民に恐怖を植え付ける役割を果たしている」。

第89項には「国家安全保衛部を解体し、透明で民主的な監視の下に社会安全省を設置すること」とある。

「中国及び他国に対して、以下のとおり勧告する」とした第90項には、「中国国内に居住する北朝鮮国民の活動や連絡先に関する情報を、北朝鮮国家安全保衛部及び他の治安機関に提供しないこと」とある。

日本政府はこの報告書を高く評価し(だから外務省のホームページに載せている)、この報告書に基づいて作成した北朝鮮人権非難決議案を国連総会にEUと共同提出する旨、強調してきた。

9月23日、ニューヨークで「北朝鮮の人権問題に関するハイレベル会合」に出席した岸田外相は、「決議案が多くの国に支持されることを期待する」と呼びかけた。「これらの取り組みが北朝鮮の人権侵害の解決に向けた具体的な行動につながるよう、日本も主体的な役割を果たす」と述べている。

その日本政府が、代表団をピョンヤンに送り、団長の政府高官(伊原純一外務省アジア大洋州局長)が、拉致問題などの「特別調査委員長」で国家安全保衛部副部長と称するソ・デホなる人物と握手し、「お会いできてうれしい」と語った場面は、国際社会には理念の混乱としか映らないだろう。

「日朝が動きつつあるから」という理由で、日本政府が国連での北朝鮮人権決議成立に中心的役割を果たすことに「慎重」になるようなことがあれば、国際社会の信を失い、まさに北朝鮮の思うつぼになるだろう。安倍政権の価値観外交は、一つの正念場を迎えている。