公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2015.08.27 (木) 印刷する

ナチス軍事パレードと韓国大統領 島田洋一(福井県立大学教授)

 韓国大統領府が8月26日、北京で9月3日に開かれる「抗日戦争と世界反ファシズム戦争勝利70周年」記念行事の軍事パレードを朴槿恵大統領が参観すると発表した。
 これはナチスの軍事パレードに参加するのと同様の行為である。
 中国の現体制については、国基研の新著『新アメリカ論』所収の拙稿に整理しておいた。引いておく。

 《中国の現体制は「帝国主義的ファシズム」と規定し得よう。その点についてまず、概念整理しておきたい。
 政治用語「ファシズム」の起源となった象徴的人物は、第二次大戦中のイタリアの指導者ベニト・ムッソリーニである。青年期のムッソリーニは純粋社会主義者で、レーニンから「イタリア唯一の真の革命家」と評価されるほど、左翼運動において光った存在だった。しかし、第一次大戦を経て、労働者階級の国際連帯など幻想に過ぎないと痛感、以後、資本主義のエネルギーも活用した国家主義的独裁の確立に精力を傾けることになる。
 ファシズムを最大公約数的かつ機能的に定義すれば、「資本主義のエネルギーを抑圧体制活性化のために用いる」ということになろう。無論、議会制民主主義の否定や、ある国家宗教的理念を体現したリーダーに束(イタリア語で「ファッショ」)になって従う指導者原理などもファシズムの現象面での特徴をなす。
 ムッソリーニは、資本主義でも共産主義でもない「第三の道」を切り開く力強い指導者として、一時は非常な国際的人気があった。アメリカのフランクリン・ルーズベルト政権も、少なからぬブレーンがムッソリーニに畏敬の念を抱いており、後にソ連と抵抗なく手を結んだのも、側近にコミンテルンのスパイが多かったせいばかりではない。全体主義的な政治に親和性を持つ政権の体質があったと言えよう。
 なお、優越人種イデオロギーや領土拡張主義はファシズムの本来的属性とは言えない。ムッソリーニのファシスタ党には少なからぬユダヤ人幹部がいたし、スペインのフランコ政権は、ヒトラーの再三の圧力にも拘わらず枢軸側に立って参戦することをせず、内にこもる傾向が顕著であった。ナチスにも、ナンバー2のヘルマン・ゲーリンクなど、破滅的戦争で優雅な生活を失うことを怖れ、領土拡張に慎重だった幹部がいる。
 したがって、ファシズムに偏執的人種主義が加わったのがナチズム、ナチズムにさらに際限なき拡張主義が加わったのがヒトラリズムと規定しえよう。なお、自集団を中核ないし頭部と位置づけ、有機的な支配圏拡張を目指すのが帝国主義(インペリアリズム)だが、ヒトラリズムに固有の部分は帝国主義の破滅的形態とも言いうる。
 中国は、鄧小平時代に「改革開放」の名で資本主義のエネルギーを部分導入し、毛沢東的な原始共産主義からファシズムへの転換を果たした。それ以後の中国は典型的なファシズム体制であり、少数民族弾圧政策を取る点でナチズム的要素も窺える。経済だけを見れば、権力に近い者が特権を付与される縁故資本主義(crony capitalism)の典型例でもある。
 また、いわゆるサラミ・スライス戦術で周辺国の領土を削り取り支配圏拡大を目指す姿勢は、ヒトラーほど無謀でないにせよ、有機的な拡張主義すなわち帝国主義的という点で同根である。
 したがって、現在の中国を一言で表せば、「帝国主義的ファシズム」ということになる。その中国が、「反ファシズム戦争勝利記念70周年」の先頭に立ち、アメリカも引き入れつつ日本を牽制しようとする様は、倒錯の極みという他ない。》

 日本の安倍首相は、中共主催の軍事パレードへの参加はもちろん、この時期の訪中自体行わないと決めた。当然の判断である。
 日本はかつて1940年9月、ヒトラーのナチス、ムッソリーニのイタリアと同盟条約を締結するという、広報戦略上、致命的な誤りを犯した。ソ連を仮想敵から明示的に外して、実質的にアメリカを対象とする形を取ったため、ファシズム対民主主義という相手側の宣伝戦に手を貸す結果となった。
 安倍首相の「訪中せず」判断は、こうした歴史の教訓をくみ取ったものとも言える。
 対照的に、韓国の朴槿恵氏は、「いま強そうな者」にただ付き従うだけの存在であることを改めて示した。歴史カードは自らの卑小さを覆い隠すためのイチジクの葉に過ぎない。中国軍が、朝鮮戦争時、多数の韓国国民を殺戮した歴史など、この愚人にとってはどうでもよいのだろう。憐れな、実に憐れな存在である。