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2016.07.20 (水) 印刷する

「日本がファシズム回帰」とする米保守誌の歪み 島田洋一(福井県立大学教授)

 ナショナル・レビューと言えば、アメリカの代表的な保守派知識人、ウィリアム・バックリー・ジュニアが創設した伝統ある論壇誌である。バックリー自身の全盛期に当たる1970年代、80年代には大きな影響力を持った。
 そのネット版に7月16日付でJapan Reverts to Fascism−Tsunami in Japanese politics(日本、ファシズムに回帰−日本政治の津波)と題する論考が載った。著者はジャーナリストのジョシュ・ゲラーンター氏(Mr.Josh Gelernter)である。全文は下記で読める。
http://www.nationalreview.com/article/437950/japans-new-fascism
 一読すると、内容は題名以上にひどい。先の参院選で自民党を中心とする改憲勢力が3分の2を占めたことから書き起こしているのだが、改憲の目指すところは「西欧的な自然な人権理論」の破棄であり、思想的なブレーンは「過激な国家主義組織」である日本会議だという。
 日本会議を極端に復古的、かつ大きな影響力を持つ秘密結社のように描く傾向は、以前から一部の英語メディアにあったが、最近の日本での「日本会議本ブーム」を受け、歪みに拍車がかかってきたようにも思われる。
 そして自民党の改憲案は神道の国教化に道を開くものだという。また、安倍政権は報道統制を強化し、日本は過去5年間に、報道の自由ランキングで、世界11位から72位に落ちたともいう。例によって、旧日本軍は中国人・韓国人女性に売春を強制したが、日本会議はそれを否定しているといった記述もある。
 最後に記事は、同盟国日本のファシズムへの回帰をアメリカは座視していてはならないと結んでいる。
 左翼メディアならいざ知らず、アメリカの代表的保守媒体にここまで無知な記述があるのを、それこそ座視していてはならないだろう。
 政府は、ナショナル・レビュー誌編集部に対して、訂正ないし反論文の掲載を求めるよう、外務省に指示すべきではないか。