公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2016.07.20 (水) 印刷する

皇室典範改正を「女系」復活につなげるな 髙池勝彦(弁護士)

 7月14日付朝刊の各紙トップ記事は、今上陛下が「生前退位」の御意向を宮内庁関係者に伝えていたと報じる内容であった。宮内庁は、そのような事実はないと否定しているので、真偽のほどはわからない。
 生前退位ということになれば、当然、皇室典範の改正が必要になる。ただ、陛下の御公務が多く、御高齢に対する健康への配慮が必要であるということが理由なら、摂政を置くなど、現在の皇室典範の規定内でも御負担軽減の対応は可能だ。
 生前退位(譲位)は、古来多くの先例があるが、第119代光格天皇が、文化14年(1817年)、仁孝天皇に譲位されたのが最後である。明治以来、制度として認めないこととした。これは多くの議論を重ねてそのようになったのであり、理由がある。この点の改正は慎重にも慎重を要する。
 しかし一方、皇位の継承、皇室の永続性の観点からは、皇室典範の改正を急がなければならない面もある。現在、皇位継承順位の第1位は56歳の皇太子殿下、第2位は50歳の秋篠宮さま、第3位は秋篠宮御夫妻の長男、9歳の悠仁さまである。その先は、悠仁さまの御子孫に期待するほかない。
 そこで、「皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承とする。」との皇室典範の規定を変更して、女系を含むものとすべきだとする意見が出されている。しかし、男系は皇室の伝統であり、女系を認めた例は歴史上一度もない。歴史上一度もないことを変更することは、歴史上の存在である皇室の存在意義そのものを失わせることになりかねない。
 皇族の範囲が少なすぎることにも原因がある。皇室典範を改正する場合には、皇族の範囲拡大、即ち旧宮家の復活なども検討すべきだ。
 皇族の御公務軽減のために、女性宮家を創設すべきであるとする考えもあるが、これも男系による皇統の維持がまずは前提だ。宮家を増やして皇室の安泰を図ることは急務であるが、この機をとらえて女系天皇を認める議論につなげようとする動きには注意が必要だろう。
 「皇室典範の改正は慎重に、かつ迅速に」と主張する所以である。